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かつての自分に戻るだけ

 それから数日後の夜。トウコとレーナは辻馬車(タクシー)を捕まえて、タイヨウのマンションへ向かった。ミカに関しては現地で合流する予定である。二人は黙って馬車に揺られていたが、トウコが思い出したように呟く。



「それにしても、ちょっと意外だったよねぇ」


「意外って何が?」


「レーナちゃん、絶対に依頼は受けないって言うと思っていた」


「…………」



 レーナは小窓から外の景色を見て、トウコに表情を隠しているようだった。そんな彼女を見て、トウコは疑いが一つ生まれてしまう。



「もしかしてさー、タイヨウくんに何か言われた??」



 びくりっ、とレーナの肩が持ち上がる。図星を突かれたらしい。その反応を見たトウコは焦りを覚えたのか、必死にレーナの肩を揺する。



「ねぇねぇねぇ、レーナちゃん! タイヨウくんとよりを戻すなんてこと、ないよね??」


「と、トウコったら、何言っているの?? 私があんな男のこと、引きずるわけないじゃない!!」



 明らかに変な言葉遣いに、トウコは半目で睨みつけた。


「いたたたっ」


 レーナが痛みを訴えながら身をよじるが、どうやら二の腕をつねられたらしい。そんなささやかな攻撃では気が済まなかったトウコは語気を荒げて忠告するのだった。



「あのね、レーナちゃん。タイヨウくんは悪い男だよ! だって、恋人でもないミカさんに合鍵渡しているんだよ??」


「そ、それは事情があっただけかもしれないし」


「ううん。絶対にミカさんの機嫌を取るために鍵を渡しただけなんだって。呼吸するように浮気する男なんだよ、タイヨウくんは」



 言い切るトウコに対し、レーナは唇を尖らせながら、ぶつぶつと言い訳を始める。



「でも……私に電話したかった、って言ってたもん。タイヨウは、私が電話壊しちゃったせいで電話できなくて、ごめんって言いたくても言えなかっただけだし。それに、また会いたいって言ってた。ちゃんと謝りたいって。たぶん、今後の話もすると思う。それはきっと他の女と縁を切るってことだと思うし――」



「ねぇ! それ、本当に言っていた?? レーナちゃん、自分が良いように解釈してない?? そもそも電話が壊れた原因も、タイヨウくんの浮気だよね!?」


「だぁぁぁーーー、うるせえな! 私がどうしようと勝手だろ!!」



 レーナが大きい声で言い争いに終止符を打とうとすると、トウコの目からゆっくり色が失われた。



「……そうだね。レーナちゃんの勝手だよ」



 今度はトウコの方が視線を窓へ向け、顔を背けてしまった。しばらくの間、無言が続き、レーナは居心地の悪さを感じたが、膝の上に乗せていた手に、冷たい感触が重なった。何があったのか、と視線を落とすと、そこにはトウコの手が。



「私、レーナちゃんがいなくなったら……続けられるかな」


「トウコ……」



 再び沈黙が訪れるが、トウコは手を離すと、気まずそうな笑顔で振り向いた。



「ごめんねー。レーナちゃんにはレーナちゃんの人生があるわけだし、それは私に強制できるものじゃないよねー」


「それは……」


「分かっているから、大丈夫だよ。いつまでも、今の状況が続くとは限らないよね。それでも、私はメヂアを作り続けると思う。簡単には魔石が手に入らなくなったり、書類の手続きも自分でやるようになったり、今みたいに良い環境じゃなくなる日がくるかもしれない。それでも……私は続けるよ。難しいことばかりでも、孤独に飲まれそうになっても、どうせ続けるんだよ」



 だって、それはレーナと再会する前に戻るだけのことだから。そのときだって、トウコは見えない何かに潰されそうになりながら、メヂアを作り続けていた。だから、一人に戻ったとしても……。


「私って何のためにメヂアを作っているんだろう」


 そんな疑問が自然と口に出てしまう。レーナが戸惑いつつも、何かを言葉にしようとしたとき、馬車が止まるのだった。



「なんか空気悪くない?」



 二人と合流したミカの開口一番はそれだった。トウコだけが笑って誤魔化すが、レーナは口を一文字に結んでいたため、ミカは追及はしまいと溜め息を吐く。



「良いわね、今日のこの時間はナイトファイブの定期配信がある。絶対にタイヨウは留守だから、配信が終わるまでに魔石を見つけるわよ」


「配信はいつ終わるんだ?」


「いつも三十分から四十分の配信。で、タイヨウが帰るまで二十分。だから、一時間以内に魔石を確保するつもりでいてちょうだい」


「スケジュールまで、よくご存じだな」



 呆れるように言うレーナに、ミカは鼻を鳴らす。



「当たり前じゃない。あの男(タイヨウ)は私のことが好きすぎて、自分のスケジュールを常に共有してくるんだから」


「へぇ……」



 引きつるレーナの頬を見て、満足そうな笑みを浮かべるミカ。これは面倒になりそうだ、とトウコは肩を落とした。



「じゃあ、私はタイヨウくんが帰ってこないか入口を見張っているから、二人ともよろしくね」



 タイヨウの部屋にはレーナとミカが入る手はずだ。レーナが一人で入った方が、スムーズに事は進むと思われるが……。



「ふん、合鍵を私に渡せば全部済むのに」


「これは私がタイヨウからもらったものなの。貴方には絶対渡さない!」



 このように、ミカのプライドによって仕事の難易度が上がってしまうのだった。

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