表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/144

アイドルはトラブル厳禁

「戻ったぞー」


レーナが工房に戻ると、忘れかけていた依頼人の女が、まだ居座っていた。その顔をまじまじと見ると……。


「あっ!!」



封じられていた記憶が、ついに解放された。



「お前、あのときの女!!」


「……ふんっ、やっと思い出したの」



依頼人の女、ミカは無愛想に目を逸らす。過去の記憶か、その態度を見たせいか、やっと静まったはずの怒りが再沸騰するレーナ。せっかく片付けた工房が、再び嵐に晒されると思われたが、トウコが二人の間に入ると、レーナを依頼人から遠ざけて声を潜めた。



「あのね、レーナちゃん。今回の依頼は大口だよ。あちらのミカさん、有名なインフルエンサーなんだって。ただ、魔石がなくて困っているんだよねぇ」


「はぁ? 魔石なら十分にあるだろ?」


「それがねぇ、どうしてもタイヨウくんが持っている魔石を使いたいらしくて」


「タイヨウが持っている魔石だぁ?? そんな面倒な仕事、受けなくてもいいだろ」



正直、嫌なことも思い出してしまうのだ。できだけ、ミカとは関わりたくないレーナだった。ただ、いつものようにトウコに押し切られるに違いない。そう思ったが、トウコは同意するのだった。



「だよねぇ。今回は断ろうかぁ」


「いいのか??」


「だって、今忙しいし。この依頼を受けたら他が回らないよ。それに……」



トウコは口を噤むと、表情を作りながらミカの方へ向かった。



「すみません。今回の依頼はお断りさせていただこうかと……」


「どうして!?」


「その、いま予約の依頼がいっぱいですし、魔石もないなら難しいですし。良かったら、他の工房をご紹介しましょうか?」


「いやだ。貴方のメヂアがいいの」


「私の、ですか??」



ミカはどこか決まり悪そうに目を逸らすと、呟くようにそのワケも話した。



「この前、エリチューブ見てたらたまたま貴方のシアタ現象を見た。けっこう……感動したから、メヂアを依頼するなら、貴方にって決めていたの」


「本当ですか??」



トウコは目を輝かす。が、レーナはミカの言葉が信じられず、その真意を探ろうと彼女を注視した。それに気付いたのか、ミカも強い視線を返してきた。まるで、先に目を逸らしたら負けだと言わんばかりに。



「どのシアタ現象ですか?? よかったら、もう少し詳しい感想なんかを……!!」



トウコが間に入ったため、視線のぶつかり合いは避けられたが、ミカは誤魔化すように話題を変える。



「今回の仕事、成功したら私のエリチューブでこの工房を紹介してもいい。登録者は百万人を超えるし、なかなかの宣伝効果よ」


「いいじゃないですか!」



賛同したのはゼノアだ。



「ミカちゃんのエリチューブは人生相談も乗ったりしているので、気持ちが晴れない人にメヂアを進めてもらう流れにしたら、相性もいいと思いますよ」



ミカは誇らしげに付け加える。



「そう、私の視聴者の中にはメヂア業界の人もいる。もしかしたら、作品がさらに評価されるチャンスかもしれないわよ」


「さらに評価……」


「うん、バズるかも」


「バズる……!!」



トウコの目には、クリエイタとしての欲にみなぎっていた。そして、その目でレーナを見る。依頼を受けよう。そう言っているみたいだった。



「無理だ無理だ。うちにある魔石じゃあ嫌なんだろ? だったら受けられねーよ!」


「じゃあ、タイヨウから取り返せばいいじゃない。その分、依頼料は上乗せするから」


「取り返すって言ってもだなぁ」


「あいつの家に乗り込んで、ぶんどるの! それくらいしないと、私の気持ちを収まらないわ」



過激なミカの意見にトウコは弱気に眉を寄せる。



「そんなことしたら、事件になっちゃいますよ??」


「問題ないわ」



ミカは平然と言う。



「タイヨウは引退したけど、いまだにアイドル扱いするリスナーは多いもの。私とトラブルになったと知られたら炎上する。そうなったら、近々開催されるナイトファイブのイベントにも影響があるから、タイヨウは私が家に乗り込んできても事件にしたりしないわ」



「お前自ら乗りこむつもりなのか?」


「当然よ。これがないと入れないでしょ?」



ミカは上着のポケットから鍵を取り出す。それは、タイヨウの部屋の合鍵のようだった。

「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、

ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。


好評だったら続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ