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タイヨウの魔石

 一方、レーナがいない工房では、トウコによってミカの依頼内容の聞き取りが行われていた。



「えっと、具体的にはどのような依頼なんですか?」


「最近、視界の中に白い浮遊物が見えるようになったの。これって、デプレッシャ化の前兆なんでしょ? 最近、ストレスもやばいし、早めに呪いを浄化してもらった方がいいかなって」


「はぁ」



 トウコはレーナが暴れたせいで散らばった資料などを片づけつつ、ミカの精神状態を診る。サングラスと帽子を取った彼女は、とても華やかで、インフルエンサーとして人気であることも頷けた。ただ、呪いが溜まっているようでも、まだメヂアに頼るほどではない。しっかり休んで、美味しいものでも食べれば治るレベルだろう。



「あの、お話しできる範囲で良いのですけど、ストレスの原因って……何か心当たりはありますか?」


 恐る恐る聞く。何となく、踏み入ると嫌なリアクションが返ってくる気がしたからだ。


「それ、関係あるんですか?」



 案の定、針のように尖った反応が返ってくる。



「そうですねー。ストレスの原因が分かった方が、それに合ったメヂアを前もって用意できるので。一般的には情報が多ければ多いほど有効的です。まぁでも、プライベートなことなので、教えてもらえる範囲で全然大丈夫ですよ?」



 トウコは柔らかい物腰で接しているつもりだが、ミカは攻撃的な視線を返してくる。まるで、信用できない、と言われているようだが……彼女は「タイヨウとは」と事情を話し始めるのだった。



「タイヨウとは十年前に知り合って、すぐに別れたけど、ずっと相談に乗ってもらっていたの。何て言うか……自分でもよく分からない寂しさがずっとあって」



 トウコは彼女のことを知らないが、有名なインフルエンサーだと聞いている。そんなに華やかな人生を送っているのなら、充実した生活を送っている。そう思ったが、どうやら多くを手にした者だけが感じる悩みがあるらしい。


「凄い孤独なの」


 彼女は言う。



「ただただ寂しくて、怖くて仕方がない。周りは私を放っておかないけど、いつも独りの気がする。そう思うと、不安で眠れない日も増えてきて、気付いたら白い雪が見えるようになった」


「なるほど、そうなんですねぇ」



 孤独とは無縁で、多くの人から愛されているという印象だが、そうでもないらしい。話は続く。



「それで、最初の恋人だったタイヨウなら……って相談しようと思ったのだけれど、最近は私の話なんて聞いてくれなくて」


「タイヨウくんが?」



 意外に感じ、つい確認してしまうと、ミカの鋭い視線。何とか微笑みで取り繕うが、やはり違和感は拭えない。なぜなら、トウコの知るタイヨウはどこまでも女性に対してジェントルな人物だったからだ。



「このままじゃあ、デプレッシャ化は避けられないと思って。だから、メヂアを作ってください。お願いします」



 明らかに気持ちがこもっていないが、商売している限り、そういう人間だって相手にしなければならない。



「分かりました。じゃあ、さっそく浄化しますか?」


「すぐに?? メヂアって人に合わせて作るから、そんな簡単にできるものではないのでしょ??」


「あー、そうですね。でも、ミカさんの状態を見る限り、ストックのメヂアでも十分に対応できそうなので」



 それを聞いたミカは立ち上がると、これまで以上に攻撃的な姿勢で、トウコに詰め寄った。



「ストックのメヂアなんて冗談じゃないわ!」


「えええ??」



 混乱するトウコだが、ミカには譲れないものがあるらしい。



「私、浄化に使う魔石は決めているの」


「はぁ。どんな魔石なんですか?」


「よく分からないけど、タイヨウが大事にしていた魔石よ。それを使ってちょうだい」



 そういえば、彼女は魔石を手にしながら工房を訪れたではないか。が、これもまたトウコは違和感を覚える。タイヨウは温かい風のように、どこまでも爽やかで何事にもこだわらないタイプだ。そんな彼が魔石を大事に持つなんて、どういうことなのだろう。ミカは説明を加える。



「あまりに大事にしているから、ムカついて持ってきちゃった。でも、当然よね。私の浄化のためなら、タイヨウは大事にしている魔石を使うべきだわ」


「そうなんですねー。で、その魔石はどこに? 持ってきているんですよね??」



 ミカの言うことが妥当なのか。それはトウコにとって、どうでもいいことだった。それより、タイヨウほどの男が大切にする魔石がどんなものか気になって仕方がなかった。



「もちろん。魔石を奪い取って、その足でここまできたわ」



 そう言いながら、バッグの中を漁るミカだったが……。



「あれ? ない??」


「どうしたんですか?」


「ない! 魔石がないの!」



 青ざめるミカだったが、魔石を失った瞬間に心当たりがあったのか、はっと目を見開く。



「あのとき、取られたんだ!!」



 彼女の言うあのとき。それはレーナがタイヨウに飛びかかったときだ。タイヨウが一瞬、ミカに接触して転んでしまったのだが……きっと、そのときに魔石を抜き取ったのだ。


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