現リーダー
「タイヨウ、死ねぇぇぇーーー!」
竜巻のようなレーナの回し蹴りに、工房内の備品が吹き飛ぶ。そんな殺人的な一撃だが、ターゲットであるタイヨウは身を逸らし、余裕をもって躱して見せた。
「落ち着け、レーナ! ここ、トウコちゃんの工房なんだろ?? お前が暴れたら、更地になっちまうぞ!?」
「だったら、逃げるな! 私に殺されろ!!」
大砲のような右ストレートをギリギリ潜り抜けたタイヨウだが、その体がミカに当たってしまう。
「いたっ!!」
「あ、すまん。大丈夫か?」
倒れたミカに手を差し伸べるタイヨウだが、その背後で殺気が爆発していた。
「女に触るな、このクズがぁぁぁ!!」
絶対神が振り下ろす大槌を思わせるような踵落としがタイヨウの脳天を襲う。だが、危険を察知していた彼は寸前のところでその場を離脱すると、今度はトウコの前に現れた。
「いやぁ、トウコちゃん。久しぶりだね。せっかく再会したんだから、ちゃんと挨拶したいところなんだけど、そんな状況じゃないみたいだから、また今度ね」
「う、うん」
「トウコに触るな、ゲス!!」
背後を襲った死の一撃を再び華麗に躱すと、タイヨウは工房の出口まで移動していた。
「じゃあね、トウコちゃん。俺が生き延びたら、高校時代の思い出話でもしよう!」
ひらっと手を振りながら、颯爽と工房から出ていくタイヨウ。だが、レーナはもちろん許さない。
「逃がすか!!」
レーナも工房を飛び出すと、これまで宙を舞っていた紙類が、パラパラと落ちてきた。静まり返る中、唖然として声も出ないトウコとゼノアだったが、ミカだけは違った。
「……レーナって、あのときの?」
蘇った記憶に、胸のつかえが取れたようだったが、次の瞬間には別の感情が彼女の中に渦巻く。忌々しい。そんな視線を、つい先ほどまでレーナの背中があった空間に向けるのだった。
「もう逃げられないぞ、タイヨウ」
タイヨウが逃げ込んだ路地は、運が悪いことに行き止まりだった。逃げ場を失い、彼はレーナと向き合うしかない。二人が工房から飛び出してから、五分ほどのこと。戦争のように続いた逃走劇の結末である。
「待ってくれよ、レーナ」
両手を挙げ、降伏のポーズを見せるタイヨウは、何とか彼女を宥めようとした。
「俺はお前にまた会えて嬉しいぜ。お前は違うのか?」
「ふざけるな。一度も電話寄こさなかったくせに。しかも、勇気を出してこっちから電話したら、番号変えていたくせに!!」
やや涙目になりながら、怒りを発するレーナだったが、タイヨウの方は思いかけぬ言葉を聞いたと言わんばかりに、口を半開きにして固まった。
「何を言っているんだ。お前が俺のスマホをぶっ壊してから、一度も会ってなかったんだ。こっちから電話したくても、できなかったんだよ」
「……えっ?」
レーナは記憶をたどる。そう言えば、ヴァレンティナの屋敷に隠れるタイヨウを見つけたとき、半殺しにしただけでは気持ちが収まらず、自分以外の女と何度も連絡を取り合ったのであろうスマホを木っ端微塵に砕いたのではないか。
「で、でも……じゃあ!」
なぜだろう。心臓がいつもより大きな音を立てる。そして、自分は何を言おうとしているのだろう。しかし、タイヨウはすべてを理解しているといった笑顔を見せて、彼女に言うのだった。
「俺は……ずっとレーナに電話したいって、思っていたんだぜ?」
「た、タイヨウ……」
力が抜けていく。レーナの膝が折れかけた瞬間、思いもよらぬ方角から殺気を向けられ、彼女は振り返る。そこには、タイヨウとは別の男が。そして、鋭いハイキックがレーナを強襲する。もちろん、不意打ちであろうが素早く躱してみせるレーナだったが……。
「誰かと思えば、スバルか」
「お久しぶりですね、レーナ先輩」
レーナを襲った人物は、目つきは鋭いものの、タイヨウにも劣らない美青年だった。殺す気で放たれた蹴りのようだったが、レーナは彼のことをよく知っている。スバル・アイモト。レーナにとっては、勇者時代の後輩となる男だ。睨み合っていると、背後からタイヨウの声が。
「助かったぜ、スバル。さすがはナイトファイブの現リーダーだ」
「いえ、タイヨウさん。それよりも、イベントが近いのに怪我をされてしまったら困ります。僕が隙を作るので、逃げてください」
淡々と言ってのけるスバルだが、それはレーナの怒りに触れる。
「ふんっ、魔王討伐のときは私とタイヨウの後ろに隠れてばかりだったお前が、隙を作るなんてよく言えたじゃねぇか」
その挑発に対しても、スバルは表情を変えなかった。
「十年も前のことです。僕がどれだけ強くなったのか、レーナ先輩に分かってらもいます」
スバルが低く腰を落とし、臨戦態勢を取る。ずんっ、と空気が重たくなったようだった。
「へぇ、相変わらず凄い殺気じゃねぇか。そんなに私が憎いか?」
十年前からそうだった。時折、スバルはレーナに殺気に満ちた視線を送ってきたのである。しかし、レーナの問いかけに、スバルは答えることなく、ただ静かに戦いの狼煙を上げる。
「…………行きます」
スバルが地を蹴り、間合いを詰めるのだった。
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