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マジで仕事つまんねぇ

「レーナちゃん、何か俺にあったクエストない??」


「はい、これ。ボンノウ村に居座る魔族の退治だって」


 淡々とした態度で、クエスト表を冒険者に差し出すレーナ。冒険者はまだレーナと会話を続けたいようだが、彼の年収は350万イエール程度。レーナの気を引くことはない。


(あー、やっぱりつまんねぇ)


 雑務の処理が山積みだが、レーナはそれに手を付けることなく、早く帰ることだけを考えた。



「皆さん、ちょっとだけ聞いてください」


 ぼんやりしていると、上司が手を叩き注目を集めた。


「来週から提携先の魔石工房が増えます。ガードの方には、工房専属の求人募集もあると伝えてくださいね」



 また提携先が増えたらしいが、どうでも良い情報だ。でも、魔石工房と言えば……。



 ――私と一緒に、魔石工房を立ち上げない!?



 トウコの言葉が頭の中に残っている。

 結果から言えば、レーナは彼女の誘いを断ってしまった。トウコは個人の工房を作ろうとしているらしいが、メヂアの世界で自営業がどれだけ厳しいものか、想像しなくても分かる。


 そんな生活では良い相手を見つけることだって難しくなってしまうだろう。さらに言えば、自分はメヂアとは関わらないと決めている。決めているのだが……。


「でも、トウコは天才だからなぁ」


 そう、レーナは彼女の才能を知っている。もしかしたら、一発当てる未来だってあるかもしれない。


「すみません、初めてなのですが」


 ぼぉーっとしていると、腹部に響くような低い声が。


(この声、絶対にダンディ系のイケメンだ!!)


 レーナが顔を上げると、想像した通り、整った髭がダンディズムを際立たせる渋い系の男が立っていた。


「はい! どのようなクエストをお探しですか?」


 スイッチを入れて接客すると、男性も好意的な笑みを見せた。



「魔石集めです。近くにエタ・コラプスエリアはありますか?」


「えっとー、メヂア職人の方でしょうか?」


「ガードです」



 ガード、か。トウコのこともあり、複雑な気持ちを抱きながら、男から冒険者カードを受け取り、情報を確認する。アドルフ・サモネフ。ガードランクA+。


 去年の年収は……1000万イエール超え!!


「素敵なクエストをご紹介しますので、少しだけお待ちくださいね!」


 レーナは自分が作り出せる最高の笑みを男に見せた後、超高速でパソコンを操作する。ガードランクA+の人間にちょうどいいクエストはないか……。



「こちらはいかがですか? あと、工房専属のガード募集もあるので、ぜひこちらもどうぞ」


「ありがとう」


「頑張ってくださいね!」



 アドルフはほほを赤らめて受付を離れて行く。良い手応えだ。レーナは勇者時代の反省を活かし、自分の美貌を発揮して世を渡るスキルを獲得した。


 それは一部の男性――具体的には顔と年収が一定以上――にしか向けられていないという問題はあるが、効果は抜群である。


 上手く進めれば、年収1000万のアドルフをゲットできるかもしれない……!!


「お待たせ」


 しかし、少し離れたところで、アドルフが女性に声をかけていた。



「クエストの受付、済ませてきたよ」


「ありがとう。頑張って一緒に魔石集めようね!」



 そして、アドルフはその女とギルドを去って行く。もしかして……と、その背中を見送っていると、同僚たちの噂話が聞こえてきた。


「あ、アドルフさんだ。パートナのメヂア職人と結婚したって聞いてたけど、こっちのエリアに引っ越したのかな」


 やっぱり、既婚者だったか。レーナは肩を落としつつも、再び昨日のトウコの話を思い出してしまう。



 ――私のガードになってよ!



 危険なコラプスエリアで魔石を集めるメヂア職人をクリエイタと呼ぶ。そして彼らを守るガードは、クリエイタの稼ぎが多ければ多いほど、収入も高くなる。


 もちろん、名を馳せているガードならば、ギルドに登録していれば、有名なクリエイタから依頼されることもあると聞くが、フリーはよほど知名度がなければ食べていけないそうだ。


「せめて、あいつが超売れっ子だったらなぁ」


 思わず一人呟いてしまう。そう、トウコが売れっ子のメヂア職人であれば、専属ガードの契約は、申し分のない話だ。


 しかし、レーナが知り得る中で、もっとも才能があるトウコですら、クリエイタとして食べて行くのは難しいようである。正直、彼女のもとで働いたところで、食べて行けるとは限らないのだ。


「はぁ……」


 同僚たちの「働きもしないのに溜め息を吐くな」という視線をスルーしながら溜め息を吐いていると、受付に一人の男性が現れた。



「すみません、冒険者向けのクエストをお願いします」


「あ、はい。冒険者カードはお持ちですか?」



 反射的にいつものセリフを口にしつつ顔を上げるレーナだったが、受付越しに立つ冒険者を見て、彼女の思考が停止してしまう。なぜならば、見覚えがあるような顔が、そこにあったからだ。



「もしかして、シシザカさん? レーナ・シシザカさん??」


「……ミナト、くん?」



 見覚えのある凛々しい顔の冒険者は、レーナの同級生だった。そして、彼の年収が800万越えであることに、彼女はすぐ気付くのだった。

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― 新着の感想 ―
新連載おめでとうございます!レーナのキャラに惹きつけられ一気読みしました!「女の欲望を溜め込んだ男が自分の元に帰ってくる」とか秀逸でムフフと笑ってしまいました。「いいもの作っても評価されるとは限らない…
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