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生きる価値のない私は

「見えた、セトバク!」


 前方に人影を見つけたロザリアは、担いでいたノノアを降ろして、さらにスピードをアップさせた。


「トウコ、一人で走れるな!?」


「うん!」


 レーナもトウコを降ろして、一気にロザリアの背中に追いつこうとするが、やはりロザリアの足は速い。このままでは距離が縮まらないままだ。



「止まれ、この冷血女!!」


 手にしていた巨槍をロザリアの背中に向かって投げつける。ロザリアは危険を察知し、身を低くしてやり過ごしたが、頭上を通過し、数歩先に突き刺さった槍に足を止めなければならなかった。


「もらった!!」



 その間に距離を詰め、ロザリアの背後から回し蹴りを叩き込むレーナ。一撃はガードで防がれたものの、ロザリアのバランスを奪う。さらにはロザリアの正面に回りつつ、追撃の蹴りをお見舞いしたのだ。


「やってくれる……!!」


 レーナの蹴りに、トウコとノノアのいる後方へ投げ出されるロザリア。二人の距離が逆転した。


「私の勝ちだ!! ざまぁみやがれ!!」



 勝ちを確信したレーナは、真っ直ぐセトバクへ向かって走る。この距離なら先にセトバクを倒せるはず。しかし……。


「なっ!? セトバクじゃねぇ!!」


 接近して、レーナは気付いた。セトバクと思われた人型の影は、違う生き物だった。通常、セトバクはエタ・コラプスエリアの呪いと同じ、黒色のはず。それが目の前にいる人型は……白だ。



「こいつ、デプレッシャだ! なんでこんなところに??」


 デプレッシャはコラプスエリアに出てくる、人間が変化したモンスターだ。エタ・コラプスエリアに現れるなんて、レーナは聞いたことがなかった。


「じゃあ、セトバクはどこに??」



 嫌な予感に、レーナは振り返る。離れたところで、こちらを見守っているトウコがいた。が、その後ろには……。


「トウコ!!」




 それは何気ない予感だった。強い視線のようなものを背後に感じ、寒気に襲われたのである。何かに見られているような気配に、ふと振り返ると……。


「えっ?」


 トウコの真後ろに、それは立っていた。人と同じ姿だが、全身が黒い影に覆われているようだ。いや、そもそもこれは生きているのだろうか。物体に近いのかもしれない。意思は感じられないようだが……


 違う。確かにこちらを見ている。こちらを見て、何かを感じている。何かを訴えようとしている。



(オマエハ、ナゼ、イキテイル?)



 音はなかった。だが、そう問いかけられているような感覚があった。まるで、トウコの生を……存在を否定するような問いかけ。その意味は理解できなかったが、


 一つ分かったことがある。この生き物は、間違いを正そうとしている。間違って生きている存在を、正しい死に変換しなければならない、と。それは意思というより、反射に近いものだった。手を振り上げ、死に変換するための一撃が……。



(レーナちゃん……!!)



 助けを求めるための声は出なかった。ただ、心の中で叫ぶ。しかし、彼女は遥か遠くにいる。とても、守ってもらえる場所にはいなかった。



(でも、もしかしたら……楽になれるかも)



 トウコの頭には、そんな考えが一瞬過った。そして、今度こそ落とされる黒い腕。トウコはそれを受け入れるように力を抜いた。



「まったく」


 しかし、死に瞬間は訪れない。黒い腕は、トウコの目の前で停止していた。


「自分の主を守れないようであれば、ガード失格ですね」



 トウコを守ったのは、ロザリアの剣だった。ロザリアは黒い影……セトバクの腹を蹴り付けて、距離を作る。


「どうやら、勝ちは私と先生のもののようですね」


 セトバクを踏み付けるロザリア。さらに、彼女から放たれる無数の剣撃がセトバクを切り裂いていった。為す術もなく、背中から倒れるセトバクを見て、ロザリアはノノアに振り返る。



「先生、魔石を取り出してください!」


「はいはい」



 ノノアが倒れたセトバクに向かって、手を伸ばすと、彼の手の平に黄金の輝きが。魔力の共鳴によって、セトバクの体内にある魔石を引き付けたのだ。


「うーん、なかなかの上物かも」


 ゆっくりと、水の中から浮き上がるように、セトバクの体内から魔石が現れる。そして、蝶が舞うように浮遊すると、ノノアの手に収まった。


「そこまで!!」


 いつの間に追いついたのか、魔王が声を上げた。決着がついた、らしい。


 勝負はトウコとレーナの敗北に終わった。

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