錬金術師として生きるのなら
「ルールは簡単!」
魔王がエタ・コラプスエリアと通常の大地の境界線に立ち、高らかに説明する。
「このエタ・コラプスエリアの奥にいるセトバクを撃破し、結果的に魔石をつかんだものが勝利である。非常にシンプルで明確なルールと言えるだろう。準備はいいか?」
レーナとロザリアが同時に頷く。しかし、トウコは気後れした様子で、横に突っ立っているノノアの顔を伺った。
「あの……先生はよろしいのでしょうか??」
「ん? 何が??」
ノノアは呆けた顔で首を傾げるが、トウコは恐れ多いと感じながら、自身の不安を口にした。
「先生も新作のために魔石を探しているのですよね? 私なんかが邪魔して、先生の新作発表が遅れたら、錬金術業界……いえ、世界にとって大変な損失になると思うのですが」
ファンの熱い想いとも言えるトウコの主張だが、ノノアはぼんやりとした視線をエタ・コラプスエリアに向けるだけで、少しも喜びを感じていないようだった。
「いいんじゃない? なんか面白そうだし」
「そう、ですか……」
そんな理由では気が引けてしまう、と思うトウコだったが、ノノアの視線が彼女に向けられる。
「それに、他人に遠慮するくらいなら、メヂア作りなんてやめた方が良いよ。大したモノ、作れないから」
「……ですね」
トウコは息を飲み、念入りにストレッチするレーナの背中に声をかけた。
「レーナちゃん、絶対に勝ってね!!」
「当たり前だ」
笑顔で応えるレーナに頷きながら思った。ノノア先生の言う通りだ。私たちはメヂアという魔性に身を捧げた存在。いまさら、他人の心配なんて……!!
トウコが覚悟を決めると同時に、魔王が右手を高々と上げ、勢いよく振り下ろした。
「始めよ!!」
二人同時にエタ・コラプスエリアの中心に向かって走り出すかと思われたが、ロザリアは踵を返して、まったく逆方向へ走り出す。
「な、なんだ??」
レーナが混乱している間に、ロザリアはノノアの手首を掴むと、ぐいっと引っ張りながら、今度こそエタ・コラプスエリアへ走り出した。
「クソ、そういうことか!!」
レーナも一瞬遅れて理解し、ロザリアとすれ違うようにしてトウコの方へ走り出す。そして、ロザリアがやったようにトウコの手首を掴むと、やはり同じようにエタ・コラプスエリアへ走り出すのだった。
「ちょ、レーナちゃん!! どういうこと??」
「黙っていろ、舌噛むぞ!!」
ロザリアのやや後ろを走るレーナ。今まで走力で誰にも負けたことはなかったのに、少しも距離は縮まらなかった。
「ふふん、さすがに気付いたか」
二人の考えを解説するのは魔王である。
「この勝負、セトバクを倒すだけでなく、魔石を掴むことが勝利条件。だが、上級のセトバクから魔石を取り出せるのは、錬金術師のみ」
下級のセトバクであれば、倒すだけでドロップされるが、上級となると一味違う。そのため、クリエイタをモンスターに遭遇させないよう、ガードは一人でエタ・コラプスエリアの中に入いる。
そして、セトバクを戦闘不能にしてから、エタ・コラプスエリアの外にいるクリエイタのもとまで、その肉体を運んでくる、という方法を取るのだ。
「だからこそ、今回は錬金術を護衛しながら進んだ方が、時間短縮になるというもの。つまり、錬金術師の護衛に徹しながら進まなければならない、という難点が……」
得意げに解説していた魔王が口を閉ざす。なぜなら、彼の解説がむなしくなるような出来事が、目の前で起こっていたからだ。
「オラオラオラオラ!!」
「邪魔です邪魔です邪魔です!!」
レーナとロザリアが突進するだけで、彼女らの道を阻もうとするモンスターたちが爆散していく。正確には、レーナもロザリアも武器を使って蹴散らしているのだが、その攻撃スピードが速すぎて、モンスターたちが勝手に爆発しているように見えるのだ。
「……ふむ。これは十年前の戦で余の軍団が敗れるわけだ」
血の雨を眺めながら、魔王は呆れたように呟く。
「先生、方向はこっちで間違いありませんか??」
「うん、このまま真っ直ぐで。もっとスピード上げても大丈夫だよ。我慢するから」
「分かりました!」
ロザリアがさらに加速するが、レーナも負けていられない。
「待ちやがれ! トウコ、しっかり掴まっておけよ!」
「分かってる!!」
そして、二組は呪いの中心地へ。だが、そこでトウコは今まで味わったことのない恐怖を体験するのだった。
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