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きっと二人なら

 あの配信以降、複数の女が「私も結婚しようって言われた!」と名乗り出た。いわゆる炎上状態となって、多くのヘイトが彼に向けられたのだが……


 それにより、タイヨウは失踪。


 彼の夢だったドームライブも、他のメンバーのみで開催され、週刊誌やワイドショーで叩かれに叩かれた。それでも、一向に姿を現さないタイヨウだったが……。


「いつまで、ここに居られるのか……」


 タイヨウは、半裸で窓辺に立ち、朝日を浴びながら憂うように眉を寄せた。そして、そんな彼の姿を見て、顔を赤らめる女性が一人。



「……タイヨウ様。貴方のことは私が守ります。だから、ずっとここにいてください」


「ヴァレンティナ嬢。私のために、そんな……」



 女性はシーツで体を覆うと、ベッドを降りて、タイヨウの背に身を寄せる。



「嗚呼、タイヨウ様。お慕いしています。例え人前では憚れることでも、私はこの恋を身を捧げるつもりですわ」


「ヴァレンティナ嬢……いや、エナ様。私のような男に、その言葉はもったいない」


「からかわないで……私、本気です!!」



 二人の視線が交錯する。そして、女性が目を細め、唇を求めたのだが……。



「やめんか、ここをどこだと思っている!?」

「勇者たちのスポンサーである、ヴァレンティナ家の屋敷だぞ!?」

「な、なんだこの馬鹿力は!?」



 何やら騒がしく、二人は動きを止めた。最低な男に恋する女、エナは何が起こっているのか理解できず、ただドアの向こうから聞こえてくる騒がしさに目を向けるが、タイヨウは状況を察したらしかった。


「や、やばい。エナ様、私の服は!?」


 脱出を試みようとするタイヨウだったが、時はすでに遅し。エナの寝室の扉が、爆発でも起こしたように吹き飛び、タイヨウの目の前を通過したかと思うと、壁にぶち当たって爆散した。


「……よう、タイヨウ。探したぞ」


 震えるタイヨウが、視線を入り口の方へ向けると……そこには赤い鬼が立っていた。



「れ、レーナ。久しぶりだな。相変わらず、怒った顔も綺麗だ。惚れなおすぜ」


「……喋るな」


「ま、待て。話せば分かる!」


「喋るなと言っただろ。お前に許された言葉は、謝罪と命乞いだけだぁぁぁ!!」



 エナの悲鳴が上がる。しかし、誰も赤鬼を止めることはできなかった。





「ってわけで、タイヨウと別れた」


 どこにでもある居酒屋で、事の経緯を話し終えたレーナだが、トウコはまだ満足していないようだ。



「で、なんで勇者をやめちゃったの?」


「勇者のスポンサー様の屋敷で暴れまくって、おまけに国の資金源でもあるナイトファイブのリーダーであり、騎士団長でもある野郎を半殺しにしたんだ。クビだよ」


「じゃあ、今は何しているの?」


「ああ? ギルドの受付だよ。冒険者やガードを相手に、ニコニコしてさ、安い給料で細々と暮らしている、ってわけ」



 コップを空にしたレーナは、天井を眺めながら呟く。



「あーあ、どこかにタイヨウより顔がよくて年収も良い男いねぇかなぁ……。私が幸せになるには、もう結婚しかないんだよ」


「結婚ねぇ。今のご時世、そんなワードはファンタジーだと思うけどなぁ」



 トウコの主張に、レーナは鋭い目を向ける。が、レーナは彼女が何を主張したいのか、理解しているつもりだったので、口を噤んだ。それなのに、トウコの方がその話を広げようと仕掛けてくる。



「ねぇ、レーナちゃんはもうメヂア制作やってないの? ハイスクールのときは成績もトップクラスだったじゃん」


「常に成績トップだったお前に言われてもな。そもそも、私にクリエイタの才能はねぇよ」


「そんなことないと思うけどなぁ。私はレーナちゃんが作るメヂア好きだったよ?」


「お前だけに褒められても、仕方ねぇだろ」



 レーナが溜め息を吐くと、トウコの眉を下げる。


「そう、だよね……」


 二人の間に、暗い空気が流れる。このままでは、どこまで沈んでしまうのではないか。レーナは慌てて話題を探すが、出てくるのは不満ばかりだ。



「せめて、もう少し充実感のある仕事にも就けたらいいんだけどなぁ。受付の仕事はつまんねぇし、かと言って勇者には戻れねぇしな」


「お仕事かぁ。私も紹介できるような口はないし、むしろ自分の食い扶持に困っているくらいだしなぁ」



 再び暗い雰囲気が流れるかと思われたが……俯いたトウコが顔を上げる。そして、希望の光を宿した瞳をレーナに向けるのだった。



「ねぇ、レーナちゃん。お仕事に満足してないなら、私と一緒に働かない??」


「はぁ?」


「私のガードになってよ! レーナちゃんの強さなら、どんなコラプスエリアでも切り抜けられるでしょ?? そしたら、業者を通さずに魔石集めもできる。いいメヂアを作れると思うんだよね!」


「ちょ、待て待て。何の話をしているんだ? 興奮するなよ!」


「興奮するよ!」



 トウコは今までの落ち込み具合が嘘だったように、明るい表情で立ち上がると、レーナに手を差し出した。


「レーナちゃん。私と一緒に、魔石工房を立ち上げない!?」


 メヂア。それは腐敗した大地、呪いの呑まれた人々を浄化する、奇跡の技術だ。そして、アートである。



 日々の生活に満足できない女が再会した。


 このときは、それだけのようだったが、二人の再会によって、人々の心を癒し、


 世界を救済する伝説のメヂアが生まれる……かもしれないのだった。

序章はここまでです。まだまだ本日中に更新するので、ぜひ見に来てください!


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好評だったら続きます!

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