それは近い未来のお話
「どうしたの、このお金!?」
百万イエールを持ち帰ったレーナに、トウコもゼノアも目を白黒させた。
「絶対まともなお金じゃないですよね!?」
「決めつけるな」
ゼノアの断定にさすがのレーナも仏頂面を見せる。もっと、有難がられると思っていたのに……。
「だって、顔も傷だらけじゃないですか!」
「レーナちゃん、このお金は返してきなさい! 悪いことしてまでお金を稼ぐ子になってほしいなんて、私言ってないからね!?」
「そうですよ! 最近は少しでも不正があると悪い評判が広がるんですから! 炎上ってやつですよ!!」
二人から責め立てられ、レーナの額に青筋が立つ。
「二人して決めつけやがって! まともにバイトして稼いできたんだよ!!」
「バイト……??」
もちろん、腑に落ちない二人にレーナは細かく説明する。変な老人に出会い、変な女と殴り合い、最終的に金を得たことを。
「モデルですか……」
「そっかぁ。凄いね、レーナちゃん。うん、さすがだよ」
「だろ? 私くらいの美貌の持ち主になると、街を歩くだけで金が転がり込んでくるもんなのさ」
「これなら……家賃は三か月分は大丈夫そうだね。ありがとう、レーナちゃん!」
「ふん、まぁな。私だって役に立つんだよ。分かったか、ゼノア」
背中を伸ばすレーナを見て、ゼノアは穏やかな笑みを浮かべる。
「そんなの、最初から分かっていますよ。僕が言いたかったのは、それぞれ役立つタイミングが違うから、人の仕事を責めるようなことはやめましょう、ってことです。レーナさんのガードとしての能力は絶対的に信じていますよ」
「そ、そうなのか?」
「はい。だから、別の方法で資金を調達してくれたことも、凄く感謝していますよ。ありがとうございます」
思わぬ労いに顔を赤らめるレーナ。それをトウコは見逃さなかった。
「あ! レーナちゃん、照れてる」
「照れてねぇ!!」
否定しながらも、さらに頬の赤みが濃くなるレーナを笑いながら、トウコもゼノアも使命感を燃やし始めた。
「さて、僕もレーナさんに負けていられません。今度こそ、エタ・コラプスエリアを見つけてきます」
「私も! すっごいメヂアを作って見せるから!!」
しかし、三日後……。
「クソッ! どいつもこいつも情報を隠しやがって! どこにあるんだ、エタ・コラプスエリアは!!」
「もうダメだ。私なんて才能ないんだ。才能ないんだ才能ないんだ才能ないんだ……」
二人が放つ負のオーラに、レーナは溜め息を吐かずにはいられなかった。
「やっぱり、ここの魔石工房がつぶれるのも時間の問題か……」
彼女が諦めたけたころ、ウィスティリア魔石工房に何者かが現れる。
「すみません、ウィスティリア魔石工房で間違いないですか?」
「!?」
来訪者を目にしたレーナの背筋が伸びた。
(い、イケメンきた!!)
高身長の二十代後半と思われる男性。やや地味な雰囲気だが、整った顔に落ち着いた表情は、女性の視線を奪うに十分だった。レーナはすぐさま美女としての顔を作ってから、男性に急接近する。
「はい、ウィスティリア魔石工房です! メヂア製作のご依頼ですか? 魔石の加工も請け負っていますので、何なりとお申し付けください!!」
「……えーっと、あのですね」
笑顔のレーナに対し、男性はどこか戸惑った様子だ。しかも、絶世の美女であるはずの自分を前にしているはずが、少しもこちらを見ようとしない。照れているのだろうか。いや、レーナの後方を見て、彼は明るい表情を見せた。
「あ、トウコ先輩!」
男性の声に項垂れていたトウコが顔を上げる。
「……イアニスくん!?」
「はい、イアニスです! 先輩が工房を開いたと聞いたので、来てしまいました!」
イケメンの視線はトウコに釘付け。まるで、レーナなど存在しなかったかのように、トウコがいる工房の奥へ行ってしまう。トウコと男性……イアニスが笑顔で再会を喜ぶ姿を見て、頬を膨らませるレーナだったが……。
イアニスと言う青年が、その後、トウコとレーナの関係に少し変化をもたらせるとは、この時点では誰も想像すらしなかった。
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