一緒にしないでほしいけど
「ポーズは取らんでいいよ。もっと自然な感じで」
先生はレーナが歩く姿をカメラで撮影するが、淡々とした調子で指示を出すだけだった。
「そう、たまに笑顔で視線をくれるだけでいいから。うん、良い感じ」
レーナは微笑みを浮かべながら、内心では出鼻をくじかれるような気分だった。
(なんだよ、もっとハードなことやらされると思っていたのに。本当にこんな楽な仕事で百万イエールなのか?)
撮影は続く。港から移動して、森をバックに。次は岩場で。
「ふふっ、良い素材がたくさん撮れたかも」
三時間ほど経っただろうか。先生は満足したらしく、撮影した写真を見返して、気味の悪い笑みを浮かべていた。横からのぞき見してみると、なかなかセンスがあり、レーナの魅力をより引き出しているようだ。
「へぇ、素材が良いとは言え、なかなか上手く撮れているじゃん。先生、これが本職?」
「いーや、本職に活かすために遊びでやっているだけだよ」
「じゃあ、本職はなんなんだ? もしかして売れっ子のクリエイタか?」
写真のセンスを見る限り、クリエイタである可能性は十分ある。しかし、先生は不満げな表情を見せた。
「あーゆーのとは一緒にしてほしくないなぁ」
どうやら、クリエイタが嫌いらしい。
「だったら、どうやって稼いでいるんだ? 趣味で出会ったばかりの女に百万イエールを渡すなんて、おかしいだろ」
すると、先生はレーナを見て、感情が読めない妙な笑みを見せた。
「まぁ、命の危険がある仕事だったから。それくらいは出さないと見合わないよね、って思って」
「命の危険?」
どこに危険があったと言うのか。終始、穏やかな時間だったと思えたが……次の瞬間、
レーナの背に死神の手が触れるような感覚があった。
反射的に振り返る。この感覚は、魔王城に踏み込んだ時を思い出させるほど、強烈なものだった。
「……誰だ」
そこに立っていたのは、一人の女だった。金髪を高い位置でまとめたハイポニーテールが特徴的だが、その目の鋭さはただものではないと瞬時に分からせるものだった。
「先生から離れなさい」
女は短い言葉は警告のようだった。確かに、レーナと先生は小さな画面を一緒に覗き込んでいたため、非常に距離が近い。しかし、どういう意味で離れろと言っているのか、レーナには理解できなかった。
「てめぇ、何の用だ。先にそれを説明しろ」
「貴方に用はありません。ただ、先生から離れなさい、と言っているのです」
ただものではない。レーナは警戒しつつ、先生から離れる。
「離れたぞ」
「いいでしょう。しかし、許しません。先生に近づく女は……誰一人として!」
女が足早にこちらへ近づいてくる。これは絶対にやる気だ。
「おい、爺さん! なんだよ、あの女!」
「ロザリアさん……」
「いや、名前じゃなくて! なんで怒っているんだ、って聞いているんだよ!」
「説明している暇あるかなぁ。よそ見してたら、蹴り殺されるよ?」
気付くと謎の女はレーナの目の前に。決して一瞬で詰められる距離ではなかったはずなのに。
「やばっ!」
それは、レーナだからこそ反応できた一撃だった。わき腹を狙った高速のミドルキック。レーナは膝を上げ、わき腹を守ったが、その威力で体が浮き上がりそうだった。
「……何者です?」
謎の女……ロザリアは必殺の一撃を防がれ、相手が只者ではないと気付いたらしい。わずかに眉を寄せ、警戒心を高めたようだ。
「あのね、ロザリアさん。この人は――」
「先生は黙っていてください!」
事情を説明しようとする先生を遮り、ロザリアは距離を取り直してから、柔らかく拳を構える。それを見た先生は「やっぱりこうなっちゃうんだよなぁ」と嘆くが、彼女には聞こえないようだ。
「よく分からねぇけど、やるってなら……やってやるぜ」
普通であれば、この狂気に対して混乱し、逃げ出してもおかしくないが……レーナも狂気を煮込んだような女だ。決して退くことはなかった。
「先生に近づく女はすべて敵。排除します」
ロザリアは呟くと、最低限のモーションで一歩前に出た。そして、繰り出される右の拳はレーナの顎先を的確に狙う。
(な、なんだこの女……。魔王軍の幹部より強いぞ?? いや、魔王より強いぞ……!?)
拳を躱したものの、レーナはロザリアを脅威に感じるのだった。
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