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女勇者、炎上配信に困惑する

 最近、レーナは自分の仕事に満足していなかった。なぜなら、王都の周辺をパトロールして魔族と遭遇しても、その赤い髪を見た敵が「おたすけー!!」と叫びながら逃げてしまうからだ。


(もう私が勇者としてやれることはない。つまんねぇし、もう引退なかぁ……)


 そんなことを考えながら、一人で暮らすには広すぎる部屋に帰宅した。そして、無駄に大きいソファに体をうずめながら考える。


(だとしたら、やっぱり結婚だ。タイヨウはナイトファイブの活動が落ち着いたら、プロデューサー業に専念すると言っていた。私はそんなタイヨウを……妻として支えるんだ!!)


 いつかは、もっと広い部屋に引っ越すことになるかもしれない。もしくは、都心から少し離れたところに一軒家か。いや、タワマンもいいかもしれない。そう言えば、タイヨウは犬派だろうか。猫派だろうか。


 レーナが明るい未来を想像していると、スマホがピカピカと光り出す。タイヨウから今日も泊めて欲しい、という連絡がきたのかもしれない。胸をときめかせながらスマホを手にするが……。


「なんだぁ? エリスタの通知じゃなねぇか。昔アカウント作っただけで放置してたのに」


 国内で流行っているSNSから何やら通知が来ている。しかも、連続で。どうやら、エリスタの登録者たちがレーナのアカウントに何かしたらのメッセージを送ってきているらしい。


「そういうやぁ、魔王をぶっ倒したときも、こんな感じだったなぁ」


 何か話題になることでもあっただろうか。首を傾げながら、エリスタを開いてみると……。



『おい、浮気女。早く配信に上がれ』

『英雄面しておいて、浮気とか最低。早く配信上がってください』

『浮気バレてて草 ここでしっかり懺悔してこいよ』



 複数の登録者からメッセージが届いているではないか。しかも、十件や百件と言うレベルではない。


 浮気? 配信? なんのことだ?


 理解できなかったが、これらのメッセージの最後に必ず動画サイト(エリチューブ)のURLが貼られていた。


「なんだよ、何かの嫌がらせかぁ?」


 レーナはネットに疎く、何も考えずにURLにジャンプしてしまう。すると、そこには金髪の女が潤んだ瞳で何かを訴えていた。


「私、もうショックで……聖女も続けられないかもしれません!」


「いやー、それが事実だったらマジで最悪だね」


 画面には女だけが映っているが、男の声も聞こえてくる。しかも、女の方は聖女らしい。確かに服装は最近の若い聖女たちの中で流行っている、可愛らしいデザインの法衣だし、顔もどこかで見たことがあるような気もした。


「ミカ・ミリカちゃんが聖女やめちゃったら、ショック受ける人も多いだろうしねぇ。何とかねぇ、レーナ・シシザカさんが配信に上がってきてくれると良いんですけど。でも、ブラッティ・レーナと話すの、ちょっと怖いよなぁ」


 男の声が溜め息交じり言う。よく分からないが、これはネットのお悩み相談室のような番組らしく、ミカという聖女が、配信者の男に相談しているらしい。しかも、配信内容を現すタイトルには、こう書かれていた。



『緊急生配信!人気アイドルグループ、ナイトファイブのリーダーがまさかの二股? 有名聖女系配信者がゲス浮気の全貌を告発!』



 はぁ?

 ナイトファイブのリーダーって……

 タイヨウじゃん。


 二股?

 どういうこと?



 混乱していると、配信者の男が呼びかけてきた。


「レーナさん、もしこれを聞いてたらね、ここに連絡先を表示させておくので、配信に上がってきてください」


 よく分からない。分からないが……ここで言及されていることが、事実なのか確かめなければならない。レーナは画面に表示されている連絡先に、通話をかけた。



「おい、これ……どういうことだ?」


「あ、勇者のレーナ・シシザカさんですか?? 私ですね、インターネットで色々な人の相談を受けている者でして、聖女系エリチューバーのミカ・ミリカさんからですね、自分のカレシを貴方に取られた、というお話を聞きまして……」


「はぁ……? 何を言っているんだ? タイヨウは私の……」


「何を惚けているんですか!?」



 ミカが割り込んできた。



「私からタイヨウくんを取ったくせに! クソ浮気女!!」


「ミカちゃん、聖女様はあまり汚い言葉を使わない方が良いと思うよー?」



 配信者が宥めて、少しは落ち着いたのだが……そこから、話しは三時間ほど続いた。ミカの話を聞いたところによると、タイヨウの浮気は間違いなかった。


 ただ、ミカとは半同棲生活で、レーナの家よりも彼女の方に入り浸っていることが判明する。つまり、レーナは……。



「じゃあ、レーナさんは自分が本命のカノジョだと思っていた、ということですかね?」


「だってぇ、タイヨウは高校卒業のときから、ずっと付き合っていたし! ナイトファイブをやめたら、結婚するって……結婚すると思っていたのにぃぃぃーーー!!」



 レーナが十万近い人間が接続する配信で、誰もがドン引きするような号泣を披露したところ、多くの同情が集まったらしく、コメントは



「これは男が悪い」

「マジでタイヨウ最低だな」

「レーナちゃんは騙されただけ。俺が嫁にもらう」



 など好意的なものに溢れる。配信者の男もレーナに同情的だ。


「これは男が一番クソだな。マジで配信に上がって来いよ、この二股野郎」


 しかし、レーナを認めない人物が一人だけ。


「タイヨウくんは確かに、この人と長く付き合っていたかもしれません。だけど、本命は私の方です!」


 聖女のミカだ。彼女は強気な態度で、それを告白する。



「だって、タイヨウくんは私と結婚するって言っていたもん! 来年中には私と結婚するって言ってたもん!!」


「……結婚、だって?」



 レーナは絶望する。なぜなら、タイヨウはレーナの前で一度も「結婚」というワードを出したことがなかったからだ。


 そして、絶望は怒りに変わる。タイヨウは持ち前の危機察知能力が働いたのか、姿を消すのだった。

「面白いかも」「どんな話なんだろう?」と思ったら、

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好評だったら続きます!

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― 新着の感想 ―
タイヨウくん……。罪な男だよ……。 さあどうするタイヨウくん! ここは男の見せ所ですよ! 葛西渚さん、面白いですね〜♪ 良い意味でただれてるのが面白おかしいです(笑 さすがでありますー!(温故知新
最強勇者相手に二股とは…そして逃げるタイヨウヤバすぎますねw 地の果てまでも追いかけてきそう……
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