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十年ぶりの再会

 トウコは新しい魔石工房を見回して、改めて不安を覚える。


「こんなに広い工房を開いちゃうなんて……」


 賑やかな駅前のテナントに入ったウィスティリア魔石工房だが、それほど広いわけではない。最低限の作業スペースに応接スペース、魔石や武器の保管庫など、三人の仕事に必要なものがギリギリ入る程度の広さだ。


「駅前の物件なんて……家賃払える気がしないよう」


 目に涙を浮かべながら、レーナにしがみつく。



「ねぇ! 大丈夫って言ってよ、レーナちゃん」


「大丈夫です!」



 渋い顔をするレーナの代わりに答えたのは、ゼノアである。


「僕は前職でトップクラスの営業成績を残していたので、この工房を売り込んで見せます。それに、ほら! これを見てください!」


 ゼノアが見せびらかすのは、魔道情報処理機器(パソコン)に表示された、ホームページだ。


「なんだこれ?」


 レーナとトウコが画面を覗き込むと……。



「レーナちゃん、これって……」


「そうです、ウィスティリア魔石工房の公式ホームページです!!」


「公式ホームページ!!」



 トウコは脳天に稲妻が落ちたかのような衝撃を受ける。


「へぇ……。なんだよ、このページ。デザイン重視で見にくいなぁ」


 しかし、レーナの方はどこか不満げで、ゼノアが眉を潜める。



「メヂアはアートでもあるんですよ? ホームページのデザイン性が高ければ高いほど、信頼性も高くなるはずです」


「そうかなぁ? 私はすぐに料金表がどこにあるか分かった方が良いと思うけどなぁ」


「……年配の方はそうかもしれないですね。改善の余地ありとして記憶しておきます」


「……お前、私のことを年配って言ったか?」


「言ってませんよ?」



 今度はにらみ合う二人の間に稲妻が走るかのようだった。



「でもさ、レーナちゃん。駅前のオフィス(魔石工房)も、公式ホームページも、夢の夢だったのに。ゼノアくんのおかげで、叶っちゃったよ。たくさん依頼が来るような気がしてきた」


「さすがトウコさん、分かっていますね。今の時代、公式ホームページは必須です。既に検索エンジンで表示されるよう対策済ですから、今にもお客さんがやってくるかもしれませんよ??」


「えー、凄い!!」



 純粋に喜ぶトウコと対象に、レーナは疑念を抱いているようだ。



「どうだかなぁ。そんな上手く行くといいけどよ」


「疑ってばかりで行動しないよりは、信じて行動する方が良いに決まっています。見ててくださいよ、すぐに依頼が舞い込んできますから!」



 強気なゼノアに辟易するレーナだったが、次の瞬間、ウィスティリア魔石工房の扉が開かれるのだった。


「ま、まさかお客さん!?」


 固唾をのむように、ゆっくりと開く扉を見守るトウコ。ゼノアは勝ち誇った顔を見せるが……。


「レーナ・シシザカ、余だ! 余が会いに来たぞ!!」


 そこには喪服のような黒いスーツに黒いネクタイ、さらには黒髪の男だった。しかも、男のゼノアですら、目を疑うような美しい顔の青年である。


「なんだよ、お前か」


 引っ越し後、初めての客と思われる男に対し、レーナはそっけなく対応する。それを見たトウコは首を傾げた。相手はレーナの好きな顔の良い男だ。しかも、スーツを見る限り金も持っているだろう。つまりは、レーナのストライクゾーンど真ん中の男のはず。なのに、なぜ浮かない表情なのか。男は言う。


「なんだ、はないだろう。店を出したと聞いたから、祝いのために余自ら足を運んでやったのだから」


 高圧的な態度に、レーナは鼻を鳴らすだけで相手にするつもりはないらしい。が、そんな青年の後ろから、小柄な初老の男が顔を出した。



「お久しぶりです、レーナ様」


「よう、バトラー。怪我の調子はどうだ? 普通なら再起不能な怪我だったと思ったけど」


「おかげさまで完治しています」


「って言うか、お前。私に監視をつけてただろ?」


「はい。すぐにバレてタコ殴りにされてしまったようですが。さすがレーナ様です。はははっ」



 どうやら老人は青年の小間使いらしいが、なんだかレーナと親し気だ。どういった関係なのだろうか。もしかしたら、貴族かもしれない。勇者時代のレーナのスポンサーだろうか。



「ねぇ、レーナちゃん。こちら様は……?」


「……」



 なぜかぶすっとした顔で口を一文字に閉ざし、何も答えようとしないレーナ。しかし、青年は応接スペースにあるソファに腰を下ろすと「こんな粗悪品に余を座らせるとは」と不満を漏らしている。とりあえず、お客さんなのだから飲み物を、とトウコはパックのお茶を出して、彼の前に置いたのだが……。


「こ、これ! そんな安物を出すとは、なんたる無礼!」


 小間使い……バトラーという男に怒られてしまった。


「ご、ごめんなさい。でも、今これしかなくて」


 頭を下げるトウコだが、青年の方がフォローを入れる。



「よいよい。レーナ・シシザカの雇い主なわけだからな。女、献上を許す。余の前に、その粗茶を置け」


「は、はぁ……」



 カップをローテーブルに置き、引き下がったトウコにゼノアが耳打ちをする。



「貴族にしたって、あまりに横柄な態度ですね。まるで一国の王ですよ」


「だねぇ。お客さんになってくれるなら良いんだけど」



 こそこそと話す二人に、バトラーの鋭い視線が。


「貴様たち、この方をどなたと心得るか! 無礼ですぞ!!」


 無礼はどっちだ、と心の中で呟きながらゼノアが疑問を口にした。


「どなたなんですか?」


 バトラーは年齢の積み重ねがよく表れた顔を赤くしながら答える。



「馬鹿者! この方は魔族の統治者である、魔王様ぞ! えーい、頭が高い!!」


「……魔王、様?」



 トウコもゼノアもその言葉の意味を理解するまで、しばらくの時間が必要だった。


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