ナイトハント
「どーせ、あの女……ホストにでも貢いでいるんだろ」
それは、レーナたちがゼノアとエタ・コラプスエリアで魔石を賭けて戦った、少し後のこと。レーナはキブカ区でメルカを見つけてから、彼女を監視していた。
と言うのも、メルカがホストに狂っている証拠を押さえてしまえば、ゼノアをぎゃふんと言わせられるだろう、という目論見があったらからだ。しかし、彼女は想像以上のものを見てしまう。
「ねぇ、どうして!? お金使ったんだから、シュンに会わせてよ! 腹筋見せてって伝えてよ!!」
メルカがホストクラブから摘まみ出される瞬間だった。
「ダメに決まっているだろう!」
突き飛ばされたメルカだが、それでも強行突破でホストクラブの中へ入ろうとする。
「やめろ、このクソアマ!」
セキュリティと思われる大男の張り手をくらって、路面に倒れるメルカ。同じ女として、胸糞悪く感じたレーナは物影から出ていこうとしたが……。
「待って待って」
建物の奥から、男がもう一人出てきた。どうやら、シュンというホストらしい。
「なぁ、メルカ……。お前しつこいよ。俺の腹筋みたいならさ、もっと金持って来いって」
「でも、今日は三十万も使ったんだよ?」
泣きそうな顔で訴えるメルカを、シュンは鼻で笑う。
「そんな金、この街じゃあ一瞬で消えちまうんだ。分かっているだろ?」
「でも、でも……!!」
必死にすがろうとするメルカだが、シュンは強引に彼女の腕を引きはがす。その勢いがあまりに強かったせいで、彼女は再び路面に突き飛ばされてしまった。
「俺の腹筋に触りたいなら、いつもみたいに男を騙して来いよ。今日だって、一人から三十万取ってきたんだろ? お前ならできるって。ほら、行って来いよ」
倒れたメルカを蹴りつけるシュン。それは本気ではないようだったが、人の尊厳を破壊する行為でしかない。シュンが建物の中に戻ると、メルカはゆっくりと立ち上がり、キブカ区のネオン街に消えていった。
「……なるほどねぇ」
次の日の夜、レーナは自宅のクローゼットから一番羽振りがよかったときの服を引っ張り出し、キブカ区へ出た。普段の彼女を知るものからは想像もできないような美貌を振りまきながら、夜を渡り歩く。そんな姿に寄ってくる男は数知れなかったが、レーナが目的としているのは、たった一つだった。
「お姉さん、美人だね! ホストクラブ、初回なら3000イエールだけど、どうかな??」
男が一人声をかけてきた。夜の店は初回の客を引っ張るために、格安で案内することがある。金のないレーナは、美貌を振りまくことで店の方から声をかけられるのを待っていたのだ。
「えー、興味ないかなぁ。もう少し安ければ、試してみてもいいかも」
「じゃあ、お姉さん美人だから……1000イエールでいいよ!」
こうして、数日の間、レーナは夜の街を楽しんだ。が、なかなか目的の店から声をかけられることはない。レーナが目的の場所にたどり着いたのは、トウコとゼノアがコラプスエリアに向かった、その日の夜だった。
「ねぇねぇ、シュンって面白い人がいるって聞いたんだけど!」
「えー? シュンさんですか??」
初回で安い料金で楽しむ人間には、なかなか希望通り指名させてくれることはないらしい。だが、レーナは運がよかった。
「こんな美人が俺のこと知っているなんて、光栄だな」
「シュンさん!?」
どこからともなく、シュンがやってきて、レーナの隣に座ったのである。シュンはレーナの美貌にやや酔っているようだった。
「俺の腹筋、やばくなーい!?」
そのため、得意の腹筋が出てくるまで、そう時間はかからなかった。レーナは目を輝かせて、甘い声を出す。
「すごーい! この腹筋なら魔族のパンチも耐えられそうですね!」
「もちろんだよ。魔族どころか、魔王のパンチだって耐えてみせるから! と言っても、魔王の野郎はどこぞのゴリラ女に殺されたらしいけどな!」
周囲が笑いに包まれる。シュンは余計な火をくべてしまったらしい。
「えー、試していいですか? 私のパンチ我慢できるか、試していいですか??」
「いいよ! 思いっきり殴ってみな!!」
シュンはレーナの笑顔を勘違いしていた。仕方のないことだが、勘違いしてしまったのだ。二人は向き合い、周りも良い見世物だと歓声に沸く。
(よーし、やってやるとするか)
一瞬見せた、レーナの不敵な笑みにシュンは気付いたが、まさか命の危機が迫っているとは思いもしなかった。
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