感想いただきました!
メルカを病院に送ってから、二人は一度トウコの家で仮眠し、朝になってから役場へ向かった。ノカナ地区の浄化を報告するためだ。
「これ、お願いします」
報告書とメヂアを役場の男性スタッフに渡すと、奇異なものでも見るような目で見られてから、彼は奥へ消えていった。
「なんだよ、態度悪いなぁ」
「昔ほどじゃないらしいけど、クリエイタに対して悪い印象を持つ人は少なくないからね」
これでシアタ現象が国のアーカイブに登録される。今度はウィスティリア魔石工房の作品として登録されるのだ。個人で登録するよりも、信頼性が高く見られるかもしれない。だとしたら、次の仕事につながる可能性もあるだろう。
先程のスタッフが戻ってきて、トウコにメヂアを返した。彼はトウコのシアタ現象を目にしたはず。少しでも心が動きはしなかったか、と表情を伺うが、煩わしそうな目で「以上です」と言われただけだった。
「ねぇ、レーナちゃん。どこかで朝ご飯食べて帰らない?」
トウコはここ数日まともに食事を取らずとも問題なかったが、事件が終わると急激に空腹を覚えるのだった。しかし、レーナは溜め息を吐く。
「そんな金はねーよ。誰かが無料で仕事を受けたせいでな」
「た、無料じゃないもん。ノノア先生の魔石をゲットしたし」
「それで飯が食えたら文句は言わねーよ」
レーナの発言に隠れて落ち込む。ノノアの魔石でメヂアを作ったのだ。これが評価されれば仕事につながる。レーナの発言は悪気はないのだろうが、それを否定するようなものだった。
「あ、そうだ。また忘れるところだった。HNアーカイブに登録しないと!」
「HNアーカイブ? なんだそりゃ」
「もう、レーナちゃんも業界人なんだから、それくらい知っておいてよ。HNアーカイブは、シアタ現象を無料で投稿・閲覧できるサービスで、登録しているユーザー同士で評価し合う機能があるの」
「そんなことして、何かメリットがあるのか?」
「もちろんだよ。たくさんの人に見られて、評価ポイントを入れてもらえたら、クリエイタとして一気に有名になるんだから。もうウィスティリア魔石工房のアカウントは作成済みだから、私たちにとって最初の作品を世界中に公開することになるよ」
「へぇ……」
ネットにいい思い出がないレーナは感動が薄いようだが、トウコは新作を公開する喜びにやや興奮気味だ。
「よし、アップしたよ」
「そう。あ、コンビニでおにぎりでも買うか」
「ちょっと、二人でアクセス数が上がっていく様子を眺めようよ!」
「それで空腹が満たされるならいくらでも付き合ってやるよ」
レーナがコンビニへ向かう。その背中を見て頬を膨らますトウコだったが、腹の虫が今までにない声で泣いた。
「レーナちゃん、待ってよ! 一緒に選ぼう!!」
二人で必要最低限の食料を買い、トウコの部屋に戻って、だらだらと食事を済ませる。トウコは正午に近づく日の光を浴びても、どこか憂鬱だった。自分は時間を無駄にしてはいないか、と。せめて、クリエイタとして一歩先に進めたような実感があれば……。
「そうだ、アクセス数……!」
HNアーカイブの評価なら、それを与えてくれるかもしれない。トウコは期待と失望を覚悟しつつ、HNアーカイブにアクセスするのだが……。
「あーーー!!」
突然、机に突っ伏したトウコに、さすがのレーナも少しばかり驚いたようだった。
「どうしたんだよ」
「ダメだった。せっかくアップしたのに……アクセスほとんどないし、評価ポイントも入れてもらえなかった」
「……そうか」
それ以上、何も言わないレーナの顔を見れなかった。
「ごめんね……。せっかくガードになってくれたのに、ぜんぜん結果出せなくて」
「そんな簡単に行くものじゃないだろ、こういうのは」
「そうだけどさ……」
分かっているつもりだ。しかし、丹精を込めて作ったメヂアが誰にも評価されないことは、かなり落ち込むものだ。一回や二回の経験ならばまだしも、それが何度も続くとなれば心は折れそうになる。しかも、今回はノノアモデルの魔石を使ったのだ。言い訳はできない。
「せめて、誰かが感想くれればなぁ。……あっ!」
トウコが顔を上げて、レーナを見ると、彼女は一瞬動揺の表情を浮かべた後、目を逸らしてしまう。
「そういえば、レーナちゃんから感想もらってない。ねぇ、昨日のシアタ現象どうだった?」
「どう、って……。だから、よかったって言っただろ」
「何がどう良かったの? 教えて? 教えて教えて教えて!!」
そこからのトウコはしつこかった。レーナにしがみついて離れず、感想を並べるまでわめき続けたのだった。どれだけの時間、そうしていただろうか。ついにレーナが根負けする。
「もう……分かったよ。感動した! 凄かったよ」
「だから、何が? 誰の、何が!?」
「……トウコのシアタ現象、最高だった! 感動したってば!!」
「なんで恥ずかしがるの??」
そこから、レーナは赤面しながら、何がどのように良かったのか、十分ほど話し続けなければならなかった。ひとしきり感想を聞き終えると、トウコは満足げな笑顔を見せたが、それで終わりはしない。
「レーナちゃん、大好き!! いつもありがとねぇー!!」
「やめろ! くっつくな!! 一生独身菌が移る!!」
興奮した犬のようにすり寄ってくるトウコが、レーナを解放するまで、さらに十分ほど時間が必要だった。
「ところでさぁ」
今度こそ落ち着いたトウコは、猫のタラミを膝で撫でながら、昨日の一件で謎だったレーナの発言を振り返る。
「ホストは今頃、地獄を見ているとか言ってたけど、あれはどういう意味だったの?」
「あー、それはだなぁ」
レーナは何が楽しいのか、口元に意地の悪い笑みを浮かべながら、ここ数日彼女の身に起こったことを話すのだった。
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