幸せだった結婚直前生活
タイヨウを中心としたナイトファイブの活動は、一年もすると軌道に乗り、露出が増えに増えた。
三年目になると、超ビッグコンテンツとなり、王国中の女性がファンに。そして、彼らのちょっとしたアクションも話題になるほど成長した。
その勢いは国の支援によるものではあったが、何よりもタイヨウの手腕が大きいと言えた。
「みんな今日も配信、見に来てくれてありがと!」
今日も、ナイトファイブの魔力情報連絡網配信チャンネルで、タイヨウが笑顔を振りまいている。
「ファンのみんなが支えてくれるから、俺たちは……夢だったエリアルドームのライブも開催できることになったんだ。本当に……嬉しいよ!」
画面の中で涙ぐみ、俯くタイヨウ。同じナイトファイブのメンバーが「泣くなよ」「リーダーだろ」とじゃれ合っている。
レーナはそれを画面越しに見ながら、ビールを一気飲みした。酒が美味い。次々と酒を飲みながら、もちろん流れるコメントのチェックも忘れなかった。
「タイヨウくん、泣かないで! ライブ、絶対に行くね」
「世界で一番尊い涙。今月ピンチだけど、五人のために投げ銭は惜しまないよ!」
「ナイトファイブは私のすべてですナイトファイブは私のすべてですナイトファイブは私のすべてです」
凄まじいスピードで流れるコメントだが、魔王軍の幹部が二体同時に襲い掛かってきたときも、すべての攻撃を回避したレーナの動体視力は、何一つ見逃すことはない。
そして、ファンたちのコメントはレーナの優越感をことごとく満たす。
「ふんっ、馬鹿どもが。お前らがどんなに投げ銭をはたいてもな、タイヨウは私の男なんだよ」
ナイトファイブの活動は三年目となり、王国の中で知らぬものはいない存在となった。タイヨウもずっと夢だと語っていた、エリアルドームのライブも決定。これが終われば……。
やばい、ニヤニヤが止まらない。
幸せな未来を想像していると、配信を終えたばかりのタイヨウからメッセージが入った。
「配信終わったよ。今日はマジで疲れたから、レーナのところに泊っていい??」
最高だ。ファンにチヤホヤされた後、自分の家に帰ってくるタイヨウ。女の欲望をあれだけ溜め込んだ男が自分の元に帰ってくる瞬間こそ、今のレーナを幸せの絶頂に導くのだった。
「もちろんだよ! って言うか、そろそろ一緒に住もうよ。家賃も無駄だしさ」
「そうだなぁ。また今度話し合おう。とりあえず帰るね!」
それから間もなくしてタイヨウが帰ってくる。レーナは魔王討伐時代、野営のときに培った技術をふんだんに駆使し、ご馳走を用意したのだが、タイヨウはどこか上の空。スマホを眺めながら食べ物を摘み、美味しいの一言すらなかった。
(……きっと疲れているんだ。今日も私のために、たくさんの女たちから搾取してきたんだから)
面倒くさい女だけにはならない。
そう言い聞かせるが……彼女は見てしまう。タイヨウがシャワーを浴びている間、彼のスマホが何者かのメッセージを受信した瞬間を。
(いやいや。いやいやいや! メッセージが見えたのは数文字だけ。女とは限らないし、仕事関係の人かもしれないし)
それでも、スマホを覗くかどうか、彼女はこれまでの人生で一番迷った。魔王の攻略方法を考えたときよりも迷った。恐る恐ると手を伸ばしたが……。
「ふぅー、スッキリした。レーナ、早く寝ようぜー」
タイミングが良かったのか悪かったのか、タイヨウが戻ってきた。
「う、うん」
そのまま、シャワーを浴びて、忘れてしまった方が良かったのかもしれない。だが、レーナは我慢できず、彼に聞いてしまう。
「あのさ、タイヨウ……。エリアルドームのライブ、成功した後はどうするの?」
「んー? なんでー?」
大事な話をしているはずなのに、視線をスマホに向けたままのタイヨウ。誰かとやり取りしているような……。レーナは怒りをどうにか抑えながら、質問を続けた。
「だってぇ、エリアルドームでライブをするって夢を叶えたら、ナイトファイブは誰かに引き継いで、結婚するって話しだったじゃない??」
「うーん? そうだったかなぁ……」
その態度は、さすがにまずかった。
「…………タイヨウ?」
「!?」
タイヨウは、レーナと共に魔王討伐に参加した、歴戦の勇者である。わずかに漏れ出た殺気を感知し、すぐさまスマホを手離して立ち上がると、レーナを抱き締めるのだった。
「た、タイヨウ……?」
「いつも待たせて、ごめんな?」
「え? う、うん」
「だけど、今はドームライブの成功に集中させてほしい。そしたら、俺……」
「そしたら、なに??」
「……ごめん。今は照れて言えないや」
「もう! 言ってよぉ」
魔王討伐のときも、タイヨウの危機察知能力によって、パーティは何度も命を救われた。この日も、タイヨウは見事にレーナの怒りという危機を回避したのだ。
しかし、彼はミスを侵してしまう。スキャンダルが発覚するのだった。
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