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◆サイコロジ・ダイブ

 さてさて、少し危ないところはありましたが、何とか私の出番がやってきたようです。


「メルカちゃーーーん!!」


 さっきまで私の横に隠れていたはずなのに、ゼノアくんが飛び出します。派手に倒されてしまったメルカちゃんが心配なのでしょう。そんな彼とすれ違うように、レーナちゃんがこっちに。



「お疲れ様、レーナちゃん」


「おう。トウコこそ、怪我はないか?」


「おかげさまで」



 ほっとしたように微笑むレーナちゃんは、本当に美人だし、かっこいい。結婚できないって悩んでいるけど、本当のところはこの人に釣り合う男の人がいない、ってだけなんじゃないかな。



「そういえば、トウコ。お前、魔石はどうしたんだ? この前、私が取ってきたやつじゃあ、シアタ現象を起こせるほどの品質じゃない、とか言ってなかったか?」


「えーっと……」



 痛いところを突かれてしまいました。どうやって誤魔化そう、と考えていると、レーナちゃんの視線が痛いものに変わっていくではありませんか。



「お前、もしかして……。例の魔石で作ったのか?」


「あー、バレちゃった?? ごめんね、色々と苦労をかけたのに」


「別にお前のメヂアなんだから好きに使っていいけどよ……まさか、この仕事の報酬が、なんとかモデルの魔石ってわけじゃないだろうな??」



 ……図星です。

 他にお金はもらっていません。

 黙っている私を見て、すべてを察したのか、レーナちゃんが大きな溜め息を吐きました。



「あのなぁ、私たちの給料はどうするんだよ。メヂアを作りたいように作るのは結構だけどな、生活がままならなかったら、工房が潰れちまうだろうが!」


「そうだよね! ごめんねー!」


「元気よく謝れば許されるもんじゃねぇぞ……」



 そう言いながら許してくれるレーナちゃんなのでした。いや、呆れているだけなのかな。


「で、今度のメヂアは自信作なのか?」


 レーナちゃんはメヂアを出せ、と言っているみたいだけど、何やら内容も気にしているみたい。もしかして、期待してくれているのかな。



「もちろんだよ。ノノア先生の魔石を使ったんだから、凄いと思うよ。本当はもっと時間かけて作りこみたかったんだけど、お仕事には納期があるし、何よりも人命には代えられないよねぇ」


「……なんかお前って、どこまで本気か分からねぇよな」


「そう? 私はいつでも本気だよ?」


「二人ともー! 早くこっちに来てください! 浄化をお願いします!」



 ゼノアくんに呼ばれ、私たちは気を失ったメルカちゃんの傍らまで移動する。そして、私は紫色のメヂアを取り出すと、仰向けの状態で気を失った彼女のお腹の上に置いた。



「それじゃあ、始めるからね」


「おう、デプレッシャが寄ってきても大丈夫だ。安心して潜ってこい」


「潜る?」



 魔石の会社に勤めている割には、ゼノアくんは錬金術師のことは何も知らないらしい。


「知らねぇのか? コア・デプレッシャの呪いを解くために、そいつに合ったチューニングを施すんだ」


 代わりにレーナちゃんが説明してくれるようだ。



「チューニングって、どうやって??」


「コア・デプレッシャの精神に潜って、呪いの根源を探る。要は、どんな悩みやトラウマがあって呪いを爆発させてしまったのか、その原因を見つけるんだよ。そして、持ち帰った情報をもとに、メヂアを調整するわけだ」


「それが……サイコロジ・ダイブってやつですか?」



 レーナちゃんが頷くと、ゼノアくんはやや視線を落とす。


「じゃあ、メルカちゃんがお金を必要としていた理由も……わかるってことですか?」


 不安げな表情が私に向けられる。



「呪いの大きく関係するものならね。……知りたい?」


「……彼女が話したいのなら、彼女から直接聞きますよ」


「それがいいかもねぇ」



 ゼノアくんの第一印象は、神経質そうで怒りっぽいって感じだったけど、割と器が大きいというか、包容力があるタイプなのかも。案外、レーナちゃんと相性良かったりしてね。


「お前、なんか余計なこと考えてないか?」


 おっと、表情に出ていたのかな。それとも野生の勘ってやつなのか、レーナちゃんは見逃さないね。


「違うよ、精神統一。色々と考えることがあるんだよ、ダイブの前は」


 二人が気を使ってくれたのか、喋らなくなってしまった。



 いよいよ始めなければならない。人の心に入るのだ。もちろん緊張する。でも、もっと緊張するのはシアタ現象の瞬間。レーナちゃんとゼノアくんは、どんな感想を抱くのだろう。


 それに、コラプスエリアの外でたまたま目にする人だっているかもしれない。今度こそ……たくさんの人を感動させてみせるんだ。



「サイコロジ・ダイブを始めるよ」


 私の呟きに二人が頷く気配があった。私は目を閉じる。


「ダイブ開始」



 瞼の中の暗闇が光に満ちていく。私は、メルカちゃんの心の中に潜り込むのだった。

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