圧倒的勇者
「もう! 遅いよ、レーナちゃん!!」
半泣き状態のトウコがレーナにしがみつく。レーナは困ったように眉を寄せながら、トウコの頭に手を置いた。
「私が帰るまで待っていろって言っただろ? 無茶するなよ」
「でも、すぐに来てくれると思ったから」
「……遅くなって、悪かった」
目を合わせ、なぜか頬を赤くする二人の女。
……なんだろう、見ていられない。
そう感じたゼノアは、痛みに耐えながら、咳払いで自分の存在をアピールしつつ、二人だけの世界に踏み込もうとした。
「女性同士でイチャイチャしているところ申し訳ないのですが……」
「な、なんだよイチャイチャって!」
「してないよ! そんなことしてない!!」
二人が素早く距離を取る。これ以上、二人の関係については追及する必要はあるまい、とゼノアは話を変えた。
「レーナさん、本当に助かりました。あと少しで死ぬところでした」
「あー? 別に構わねぇよ、客なんだから」
いや、客を使い走りにしたくせに。そんなツッコミを飲み込み、ゼノアはもう一度感謝の気持ちを伝えた。
「助けられたのは事実なので。ありがとうございました」
頭を下げるゼノアに、少しだけ照れくさそうな表情を見せるレーナ。その横では、なぜかトウコが誇らしげに頷いている。
「でも、依頼はメルカちゃんの救出です。協力……してもらえるのでしょうか?」
今まで失礼な態度を取ったし、人格も疑った。いや、今も疑っている部分もあるが、彼女の本質の一部に触れたゼノアは、本来の自分らしく彼女と接してみよう、と心に決める。実際、彼女はそんなゼノアの意思に応えた。
「もちろんだ。行こうぜ、まだ遠くまで離れてはいないはずだ」
レーナが言った通り、コア・デプレッシャはそれほど離れてはおらず、先程と同じように白い世界の中をさ迷っていた。目的がなく、ただ移動しているようだが、見えない何かを求めるようでもある。そんな彼女をいち早く助け出したかった。
「よーし、一仕事するか」
レーナは鎧を身に着け、巨大な槍を手にして、腰には剣を下げた。
「気を付けてください。おそらく、彼女は体の一部を巨大化させるスキルを持っているようです。想定外の間合いから攻撃が飛んでくるかもしれないので……」
「大丈夫だよ」
自分が感じた脅威を伝えようとしたが、トウコの方に遮られる。
「コア・デプレッシャがどんなスキルを持っていても、レーナちゃんには関係ないから」
トウコの言葉に、レーナは微笑みを浮かべた。
「そういうことだ。じゃあ、トウコを頼んだぜ」
レーナが飛び出し、一気にコア・デプレッシャへ詰め寄る。コア・デプレッシャの方も接近する脅威を察したのか、振り返ると同時に腕一本を巨大化させると、虫でも払うように動かした。
巨大な壁に迫られるような攻撃だ。普通ならば、吹き飛ばされて、潰されてしまうこともあるだろう。しかし、トウコの言う通り、レーナには関係がなかった。
「おらよっと!!」
レーナは背負っていた巨槍を手に取ると、コア・デプレッシャの攻撃を叩き潰す。明らかに、質量で劣っているにも関わらず、レーナは槍を叩きつけて、巨大な一撃を止めてしまったのだ。
「う、嘘だろ……」
あまりに非現実的な光景に、ゼノアは言葉を漏らさずにはいられなかった。だが、戦いは終わったわけではない。コア・デプレッシャは動揺したのか、少し距離を取ったが、ゆっくりと口を開いた。
「二人とも、耳を塞げ!!」
開かれた口。そこから放たれるのは……絶叫だった。苦しみを訴えるような悲鳴。だが、それは音波兵器のレベルに達している。離れた位置にいるゼノアとトウコは両手で耳を塞ぐが、凄まじい頭痛に襲われ、吐き気すら覚えた。さらに近い場所に立つレーナは、さらに危険な状況かと思われたが……。
「うるせぇーんだよ!!」
槍を投げると、それは神速のごとく突き進み、音波を貫いて、コア・デプレッシャの肩に突き刺さった。いや、爆ぜさせた。
「め、メルカちゃん!!」
「大丈夫だ、人間に戻ったときも、かすり傷程度で済んでいるはずだ」
ゼノアを宥めてから、レーナは追撃のために、コア・デプレッシャへ向かって駆けて行き、高々と跳躍する。月光を背にする彼女を見上げ、コア・デプレッシャは立ち上がろうとするが、人類最強クラスの戦士を前にして、その動きは遅すぎた。
「おりゃあああーーー!!」
レーナの強烈な踏み付けによって、コア・デプレッシャは完全に沈黙するのだった。
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