がむしゃら男子
「あのガード! 偉そうなくせに、肝心なときに役立たずなんだから!」
不満を漏らすゼノアだが、その全身は鎧に包まれていた。
「安心してください、トウコさん。僕が命を懸けて貴方を守るので、メルカちゃんをお願いします」
「えー? 命を懸けて守るなんて男の人に言われるなんて、思いもしなかったよー」
「そういう意味ではありません」
「あははっ、分かっているよ」
レーナと連絡が取れなかったため、ゼノアとトウコは二人だけでコラプスエリアへ向かうことになった。ゼノアが全身武装でガードの役目を果たすと主張したが、正直なところ、自分で見ても頼りない。
「それでも、メルカちゃんを助けるために……」
その呟きに、トウコが微笑むがゼノアは気付かなかった。
「ま、真っ白ですね」
濃い雪が降ったように白く染まったノカナ地区。コラプスエリアの独特かつ異様な光景に、驚愕を隠せないゼノアだが、トウコは慣れたものだ。
「初めてなの? ちょっと危険だから気を付けてね」
「はい! 僕の後ろから離れないでください」
ゼノアは槍を構えながら前進を始める。夜は視界も悪く、モンスターの力が強まると聞く。素人の自分がどうにかできるだろうか。不安はあるが、ゼノアは進むしかなかった。
「いやー、本当に怖いねぇ」
トウコが後ろで呑気な声を出す。どう考えても、怖がっていないようだが……。
「レーナちゃん、ちゃんとメッセージ見てくれると良いんだけどなぁ」
「適当な人なんですよ。当てにするのはやめましょう」
「ガサツに見るけどね、本気を出したときと、素を出したときは、凄い女の子らしい女の子なんだよ」
「素を出したときって……それこそガサツで暴力的なだけでしょう」
そんな会話で気を紛らわしながら、魔力計測器を頼って呪いの中心地へ向かうが、ついに恐れていた脅威が目の前に現れてしまう。
「で、デプレッシャ……」
コラプスエリアによる呪いの影響を受けると、人々はデプレッシャと呼ばれるモンスターに変化してしまう。見た目もおどろおどろしく、全身を蝋で固めたように真っ白なことが特徴だ。
「ゼノアくん、デプレッシャは人間だよ。絶対に殺さないようにね!」
「わ、分かってますよ。けど……!!」
相手の命よりも、自分の身を守り切れるかどうかの方が問題である。
「ギチギチギチ……」
何かをこすり合わせたような不気味な音を立てながら、デプレッシャがこちらに向いた。
「ギチィィィーーッ!!」
「う、うわぁ!!」
襲い掛かるデプレッシャ。ゼノアは後ろにのけ反り、倒れそうになったが、何とか槍を突き出した。甲高い音と共に、鈍い振動が伝わってくるが、槍の一撃はデプレッシャに突き刺さることなく、弾かれてしまった。
「な、なんて硬いんだ……!!」
「ギチィ」
「ひいっ!!」
驚いている暇なく、デプレッシャが目の前に迫ってくる。デプレッシャが手を振るい、槍を叩き落したかと思うと、もう一本の腕をゼノアの側頭部に叩きつけてきた。
「うわぁぁぁ!!」
そのパワーにゼノアは吹き飛ばされ、白い大地の上を転がってしまう。痛い。痛いけど……これくらいが何だと言うのだ。ゼノアは何とか手放さずにいた槍を持ち上げ、がむしゃらに振るって、デプレッシャの接近を拒んだ。
「トウコさん、行きましょう! コアの方へ!!」
「分かった!」
デプレッシャが迷いを見せている間に、白い世界の中心に向かって走る。何度かデプレッシャと遭遇したが、二人は何とか回避しながらコラプスエリアの中心に向かった。それは綱渡りのようなもので、普通であれば、いつかはデプレッシャに囲まれてしまうだろう。
「み、見つけた」
しかし、二人は奇跡的に見つける。少し離れたところで、行き場なく、さ迷うように歩くデプレッシャに、魔力計測器が強く反応していた。
「間違いない。あのデプレッシャがコア……メルカちゃんだよ」
ゼノアは頷く。
「良かった。トウコさん、浄化を……シアタ現象を起こしてください」
「ダメだよ。まずはメルカちゃんの動きを止めて、サイコロジ・ダイブしてからじゃないと!」
ゼノアは必死のあまり忘れていた。コア・デプレッシャの動きを止めなければ、メヂアは発動できないことを。
「ど、どうすれば……!?」
ゼノアは冷えた汗で額を濡らしながら考えるが、結論は一つだった。
「僕が命に代えてもメルカちゃんを止めます。だから、そのあとは……お願いします!」
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