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奇跡の予感が……

「ついに初めてのお仕事だよ。レーナちゃんに電話しないと!」


 上機嫌に電話をかけるトウコの背を見て、ほっとするゼノアは、ここにくるまでいくつもの魔石工房から依頼を断られていた。ノノアモデルの魔石を報酬として受けてもらえないか、と持ちかけてみても、出所が怪しいと相手にしてもらえなかったのである。


(やっぱり、この女は依頼を受けたか……)


 ノノアモデルの魔石を見たときの彼女は、他の人間と目の色が違った。もちろん、大錬金術師ノノアのファンは今も存在するが、時代遅れの作品と認識されることも少なくない。十年前ならば、喉から手が出るほど、この魔石を欲しがる人間は山ほどいただろうが、今ではトウコのような熱狂的なファンくらいなのだろう。


「あ、レーナちゃん?」


 どうやら、あの無礼な赤髪の女が電話に出たらしい。


「聞いてよ。初めてのお仕事だよ! ゼノアくんがメヂアを作ってほしいって!」


 赤い髪の女……レーナはどんなリアクションだったのだろうか。なぜかトウコは動揺している。


「そ、それは後で考えればいいじゃん。それよりさ、早く帰ってきてよ。二人でメヂアの構想を練ろうよ」


 笑顔で話していたトウコだったが、表情が少しずつ不満げなものに変化していく。


「えー、どうして? ……分かったよ、でも三日以内に用事は済ませてよ。それまでにはメヂアを完成させるつもりだから」


 さらに、一言二言と交わしてから、電話を切った。



「ガードは何と言っていたのです?」


「んー、当分は忙しいから手伝わないって。レーナちゃんだってメヂア製作について無知ってわけじゃないんだから、少しは手伝ってほしかったのになぁ」


「ガードなのに、手伝えるものなのですか?」



 普通はガードはクリエイタの護衛で、戦闘技術に特化しているものだ。錬金術の知識などないはず。特に、あのような女の場合は、考えにくいのだが……。


「レーナちゃんは学生時代、錬金術科だったからねぇ。それが、いつの間にか勇者になっていたから、私もびっくりしたよ」


 ゼノアは信じられなかった。いや、たまに手先が器用な女が「クリエイティブな仕事なら勉強する必要はない」と勘違いして、錬金術科に進むこともあるようだが、そのタイプだったのだろう。


「しかも、良いメヂアを作っていたんだよ。もったいないよねぇ」


 そんな溜め息交じりの言葉も信じられず、ゼノアは呆然としていたのだが、トウコがなぜか笑顔で両手を差し出してきた。



「では、さっそく」


「な、なんですか?」


「なんですかって、ゼノアくん。メヂアを作るには、魔石が必要でしょう?」


「あ、ああ……いや、ノノアモデルをそのまま使うつもりですか??」


「当然だよ。これから新しい魔石を確保して、加工して……って最初からやっていたら、騎士団の強制浄化が始まっちゃうよ??」



 その通りだ。その通りではあるが、会社の所有物である魔石を、どこの馬の骨か分からないクリエイタに流したとなったら……。

 もちろん、それも覚悟でここにきたわけだが、まさかメヂアとして使われるとは思っていなかったので、気が引けてしまう。


「早く早く!」


 しかも、トウコは明らかに「早く魔石をいじらせろ」と言った想いが透けて見えるので、ゼノアの大義が揺らいでしまうような気分になった。



「……大事に、使ってください、ね」


「わーい、ゼノアくんは私たちに幸福をもたらしてくれる天使かもね!」



 僕が不幸のどん底ってことを忘れていないか、と心の中で呟く。



「いつから僕のことをゼノアくんって呼ぶようになったんですか。絶対、僕の方が年上でしょう」


「そういうの、気になるタイプ? なら、ミタカさんってお呼びしましょうか?」



 魔石を受け取りながら、軽やかに作業机の前に移動するトウコ。


「別に……呼び方なんて何でもいいですけど」


 ただ、これまで自分を「くん」と付けて呼ぶ女性は、メルカだけだったので、少し変な気分になっただけだ。ちなみに、トウコの年齢が自分より五つも上だと知って、ゼノアが驚くのは、もう少し先のことである。トウコ曰く「苦労知らずって言われるみたいで嫌なんだけどね」ということらしい。


「今なら最高のメヂアが作れる気がする!」


 目の前に魔石を置いたトウコは、確かに覇気に満ちていた。


(もしかして、僕はとんでもない傑作が誕生する瞬間に立ち会うことになるのでは……)


 ゼノアがそう感じるほど、奇跡の前触れがあったのだ。しかも、素材の魔石も一級品である。トウコの実力に不安はあるが、何かが起こりそうな空気だった。それなのに……。



「ダメだぁ……」


「えええ……」



 三時間もすると、トウコは頭を抱えてしまった。


「ぜんぜん良いものを作れる気がしない。私なんて、才能がないんだ……!!」


 このまま、泣き出しそうな勢いである。


「もうやだよ! こんなに頑張っているのに、私の才能はいつも私を裏切るんだ。手が動かない。頭が動かない。心が動かないんだよ!!」


 半狂乱のトウコを見て、ゼノアは呟く。


「……終わった」


 会社の所有である高価な魔石を投げ出した結果がこれなのか。ゼノアは気が遠のいていくようだった。

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