明日が怖くならないように
「うわぁぁぁーーー! 私、ミルキーランド久しぶり!!」
チケットを取って、ドタキャンされることも覚悟していたゼノアだが、メルカはやってきた。そして、今まで見せたことのないような笑顔で、心の底から楽しんでいるようだった。
「見て見て、ゼノくん! ミルキーくんがいる! 一緒に写真撮ろう!!」
ミルキーランドのマスコットキャラクターであるミルキーくんを見つけ、無邪気に駆けるメルカ。なぜだろうか。これまで見てきた彼女は本当の彼女ではなく、今目の前にいる彼女こそが、本物のメルカであるように見えた。
「早く早く! 何しているの、ゼノくん!」
「待ってよ、メルカちゃん!!」
もし、メルカが自分に素顔を見せてくれるなら、自分はすべてを賭けて彼女を守ってみせよう。そう決意するゼノアだったが、今は純粋に彼女とデートを楽しむことに集中するのだった。
二人は一日中ミルキーランドを楽しんだ。さまざまなアトラクションに乗り、キャラクターたちと写真を撮って、パレードも見た。それだけに、夕暮れがやってくると、今までに味わったことのない寂しさが胸に溢れるようだった。
「……帰りたくないなぁ」
夕暮れを背負ったミルキータワーを眺めながら、メルカが呟く。ゼノアにしてみると、それは奇跡のような言葉だった。いつも親し気に微笑んでくれるのに、帰るときは名残惜しさなど一瞬たりとも見せてくれなかったのだから。
「僕もだよ。今日この日が永遠なら良いのにね」
「本当にそう。一生ゼノくんと遊んでいたいな」
「僕と……?」
騙されているかもしれない。そんな不安に亀裂が入るような一言である。
「うん。ゼノくんだけだよ、私のことを大事にしてくれる人なんて」
「……そんなこと」
ない、と言いかけて、頭に過る。他の男は彼女をどう扱っていると言うのだ。いや、そもそも他の男なんて……。
「僕はメルカちゃんを一番大事に思っている。何があっても……君を守りたいんだ」
いつもなら、彼女は「うれしい。ゼノくん、王子様みたい」と言って大袈裟に喜んだ。しかし、この日は違う。夕日を見つめながら、わずかに微笑むと、その表情のままこちらに振り向くのだった。
「ありがとう。ゼノくんのそう言うところ、好きだったよ」
「メルカちゃん……」
好き。好きと言った。彼女が、僕のことを。
あの女は言っていた。詐欺師たちは絶対に「好き」とは言わない、と。ゼノアからしてみると、世界が変わる瞬間だ。地獄から天国に。そんな大革命が起こっているなんて思いもしないであろうメルカは、再び夕日に染まったミルキータワーを眺めながら呟くのだった。
「明日なんて来なければいいのに」
「また来よう」
「え?」
「またすぐに! 明日……は無理かもしれないけど、次の週末に。明日が怖くならないよう、二人で楽しい日をいっぱい作ろうよ!」
積極的にメルカを誘うことは今までもあった。だけど、その成功率は五回に一回程度。ちょっと良い雰囲気になったからと言って、調子の乗りすぎただろうか。しかし、彼女は微笑んだ。とても自然に。
「いいね、それ」
「じゃあ、約束だね!」
その日、二人は別れた。次の日、ゼノアはミルキーランドよりは少しグレードの低い魔法アトラクション施設のチケットを二枚購入する。すぐにメルカを誘って……次のデートは帰り際に気持ちを伝えるんだ。そう覚悟を決めて電話をかけるが、応答はなかった。
「どうして、電話に出てくれないのかな……」
電話を無視される日々が続く。やっぱり、このまま……今まで通りの関係に戻るのだろうか。いや、もしかしたら会えないのかもしれない。不安な日々を送ったが、週末が近づいたある日、メルカの方から電話ががあった。
「メルカちゃん??」
「……ゼノくん、今までありがとうね」
「どうしたの? メルカちゃん??」
しかし、返答がないまま、電話が切れてしまった。週末になっても、メルカから電話はない。
様子を見に行くにも、ゼノアは彼女のことは何も知らなかった。住まいも、職場も、何も……。
そんな中、ゼノアは信じられないニュースを目にする。
「ノカナ地区で微小なコラプスエリアが発生しました。コア・デプレッシャは特定できていませんが、目撃者の情報によると、メルカと名乗る二十代の女性と思われ――」
メルカがデプレッシャに。魔石業界で働くゼノアはすぐに理解した。微小なコラプスエリアに対し、国は積極的に浄化は行わないだろう。そこでモンスター化してしまった人間と一緒に、デプレッシャを殺してしまった方が、コストを抑えられるからだ。
「僕が……メルカちゃんを守らないと!!」
しかし、問題点はもう一つある。
コラプスエリアを浄化するほどのメヂアは、高額でなければ製作依頼は受けてもらえない。今のゼノアに、そんな金はなかった。
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