自分だけは大丈夫
「本当に、あのエタ・コラプスエリアで魔石を手に入れたのですか? 魔族を撃破して、セトバクまで倒したと??」
信じられない、とゼノアは確認するが、レーナは下らないと言わんばかりの態度で二度も頷いた。
「そーだよ。トウコが泣き出すから、大変だったんだぞ」
「泣いてないよ!?」
否定するトウコだったが、それは事実に近かった。ゼノアが立ち去ってしまった時点で、無駄働きはしたくないというレーナだったが、トウコが何とかしてほしいと、ごね続けたのだ。
折れた後のレーナの動きは速かった。呪いの中心に進み、セトバクを撃破、魔石を手にすると、トウコを担いで街中まで戻ってきたのだ。
「で、お前が変な女に金を渡しているところを見つけた、ってわけだ」
「メルカちゃんは変な女じゃない! いい子なんだ!!」
「どうでもいい。それより早く魔石を寄こせ。約束だろ??」
「うぐっ……」
ゼノアの泳ぐ目を見て、レーナは思う。
(まさか、こいつ……適当なことを言ってバックレるつもりか?)
かくなる上は、実力行使も……と拳を握るレーナだったが、ゼノアはとんでもない主張を振りかざすのだった。
「証拠が、ない!!」
「はぁ??」
「その魔石、本当に僕が紹介したエタ・コラプスエリアでドロップしたものですか? 貴方たちがもとから所有していたものだということも考えられます。そもそも、これだけの短時間でエタ・コラプスエリアを攻略するなんておかしいですよ!!」
「お、お前……本気で言っているのか??」
ゼノアの勢いにさすがのレーナも混乱を隠せなかった。レーナがあれだけ圧倒的な力を見せたのだ。短時間でエタ・コラプスエリアの攻略だって可能であることは、ゼノアだって理解しているはず。
それなのに、レーナが嘘を吐いているというのだから、無理があるというものだ。とは言え……。
「誰も信じませんよ。貴方が三時間以内でエタ・コラプスエリアを攻略なんて」
確かにその通りだ。普通ならあり得ないことなのだから。
「まさか、レーナちゃんの強さがこんな形で裏目に出るなんてねぇ」
「うるさいぞ、トウコ」
トウコの方は肩を落として諦めかけているようだが、レーナは違う。ゼノアに一歩詰め寄ると、今にも噛みついてきそうな鬼気を放つ。
「おい、これ以上しらばっくれるなら、ぶん殴ったっていいんだぞ?」
「暴力を振った時点で貴方の負けだ。事件にしますよ??」
「……」
レーナは身を退くが、わざとらしく深い溜め息を吐いて見せた。
「まぁ、そうだよな。最初から分かっていたことだ。お前はやっぱりそういうやつだよ。だから、女に騙されるわけだ。さっきの女、絶対にお前をカモにしているだけだろ?」
不景気が悪化してから、女性に騙された男性が金銭トラブルに陥るという事件が頻発した時期があった。世間に広く知られたことで、事件の数は減ったようだが、当時多くの男性は思ったそうだ。自分だけは引っかからない、と。もちろん、最初はゼノアもそう思っていたことだろう。
「彼女は、そういうのじゃない!!」
いや、今もそう思っているらしい。
「じゃあ、あの女がお前のものなるとでも思っているのか? その手の詐欺師は、裁判のときに不利にならないよう、絶対に好きって言葉は使わないらしいぞ? お前は好きって言われたか??」
悔し気に黙り込むゼノア。これは見ている方が居たたまれない、とトウコは止めに入ろうと思ったが、ゼノアが怒りの形相でレーナを見据えた。
「貴方に見る目がないだけです。きっと、貴方はどんな人も斜めに見て、純粋に人を愛することもできないタイプだ。どうせ、男性のことも外見や年収だけで判断しているでしょう??」
「むぐっ……」
レーナがたじろいだ瞬間を、ゼノアは見逃さなかった。
「やっぱりね! 貴方のような人間は、死に際は孤独ですよ。ええ、貴方は多少外見がいいかもしれない。だけど、そんな腐った性格では、一生独身に違いありません!!」
レーナの頭上に稲妻が落ちたかのようだった。こんな今日初めて会った男に、私の何が分かるのだ、と自分の態度は棚に上げ、ショックで固まった後、次第に怒りがこみあげてくる。
「てめぇ、もう一度言ってみろ!! ……って、あれ?」
やっぱり、ぶん殴ってやろう。そう思ったのだが、周囲を見回してもゼノアはどこにもいない。
「レーナちゃん、あの人……もう行っちゃったよ」
怒りの矛先をどこに向けるべきか分からなくなったレーナは、空に向かって叫ぶ。
「次会ったら絶対にぶん殴ってやる!!」
しかし、レーナの鉄槌を受けずとも、ゼノアは地獄に落とされてしまう。それは、今から数日後のことである。
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