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三人の魔族と最強女勇者

 黄金の瞳を輝かせる三人の男女。不気味な視線はどれもレーナに向けられているが、当の本人は少しも恐れる様子はなかった。


「どうやら、ねぐらを荒らされて出てきた……わけじゃないみたいだな」


 魔族はエタ・コラプスエリアに住み着くことがある。だが、複数体が寄り添って暮らすことはない。


「私たちに用か? それとも、お前たちも仕事欲しさにやってきたか?」


 ゼノアは初めて魔族を目にしたため、恐怖に足が震えていた。森の中で大型の獣に出会ったようなものである。しかし、隣のトウコは動揺するどころか、顔色一つ変えていない。



「に、逃げた方が良いとも思いませんか?」


「そうですかね? レーナちゃんが慌てていないし、大丈夫だと思いますけど」



 確かに、魔王を倒した伝説の勇者がいるのだから、恐れる必要はないのかもしれない。それでも、恐ろしいものは恐ろしいわけだが、足は動かないため、どうしようもなかった。



「キロス様、本当にあれが血塗れのレーナ(ブラッディ・レーナ)なのですか?」


「知らん。殺せるものなら殺しても構わない、という指示だ。キーラ、魔法の準備は?」


「お任せください。バムウ、足手まといにならないように」



 リーダーと思われるキロスは、大剣を背負った巨漢。真っ先に飛び出そうとしている小柄で細心な男がバムウ。そして、先端に装飾が施された杖を手にした女がキーラというらしい。


「なんだよ、用事を言えって。それとも。ただ喧嘩したいだけなら、こっちから行くぞ?」


 コミュニケーションを取るつもりがない魔族に、レーナは笑いかける。ただ、その笑顔はどっちが魔族なのだと確認したくなるくらい、獰猛で暴力的だった。


「バムウ、行け!」


 キロスの指示に、バムウが動く。ゼノアには小柄な男が消えた、という認識だったが、レーナを中心に凄まじい突風が発生している。どうやら、バムウが高速移動でレーナの周りを回っているらしい。


「キーラ、魔法だ!」


 さらなるキロスの指示に反応し、キーラが手にする杖の先端が光輝いたかと思うと、そこから魔力エネルギーの光線が放たれた。それは、触れたものを焼き切ってしまう恐ろしい光線であり、その先にはレーナが立っているのだが……。


「うおりゃ!」


 ちょっと重い荷物を持ち上げた。そんな掛け声と共にレーナが槍を振り下ろすと、魔法光線が叩き潰され、完全に消滅する。


「……な、なんで??」


 キーラは驚愕の表情を浮かべると同時に、レーナの背後にバムウが現れた。キーラの魔法を囮にした、完璧な不意打ちだ。バウムは手にしたナイフを突き出す。



「死ねぇい!」


「お前がな!」



 ナイフの一撃は空を切る。

 かと思えば、レーナが振り返りつつ、裏拳を放った。それはバウムの顔面にめり込み、鼻を陥没させるどころか、意識も砕いたようで、その場で崩れ落ちる。


「ば、化け物!!」


 キーラは仲間が瞬殺され、動揺しつつ魔法光線を連続発射する。しかし、レーナはダンスでも踊るように光線を躱しつつ、足元の石を拾い上げると、それをキーラへ投げつけた。


「ぎゃあっ!!」


 短い悲鳴。まさに剛速球と言える石の投擲は、キーラの顔面に直撃し、彼女の意識も奪ってしまったのである。つまり、残りは大剣を背負ったキロスのみ。


「……ふむ」


 部下の二人が瞬時に撃破されてしまったが、キロスは落ち着いた様子だった。レーナの実力を見てなお、この冷静な態度は、かなりの実力者であることは間違いない、とゼノアは息を飲んだが……。



「……すみませんでした」


「えっ?」



 大男が頭を下げる姿に、ゼノアは愕然と目を瞬く。が、キロスは何度も頭を下げながら、部下の二人を担ぎあげると、なんの恥ずかしげもなく、全力疾走で去って行ってしまった。


「さてと、邪魔者はぶっ飛ばしたし、魔石探しを再開するぞー」


 レーナは準備運動でも終えたような調子で首を左右に曲げながら、振り返る。そんな彼女の姿を見て、固まって動けなくなってしまったゼノアに、レーナは吹き出してしまった。



「どうした? 私の強さにびびっちまったか?」


「た、確かに強い……。でも、ガードが強いからと言ってクリエイタが優秀とは限らないぞ!!」



 トウコが迷惑そうに顔をしかめる。こっちに飛び火したか、と不満が漏れてきそうだ。



「おっ? 私の強さを認めたのなら、もう何とかの魔石を寄こしてもいいじゃねぇか。ほら、出せ」


「ふ、ふざけるな! まだこのエリアの魔石を手に入れていないじゃないか! 簡単には渡さない!」



 ゼノアが魔石を差し出さない理由は、それだけではない。実際、ノノアモデルの魔石は、会社の所有物。彼の判断で勝手に譲渡できるものではないのだ。レーナは退屈そうに溜息を吐く。


「分かっているよ。まだ時間はあるし、とっとと片づけるとするか」


 レーナが巨槍を持ち上げ、エタ・コラプスエリアのさらに奥へ進もうと踵を返したところ、何やら電子音が聞こえてきた。


「あ、電話だ。……ちょっと失礼!」


 どうやら、ゼノアの携帯魔力通信機(スマホ)に着信があったらしい。ゼノアは慌てて電話に出るのだが、どこか様子がおかしかった。


「どうしたの? う、うん。僕は大丈夫だよ。……えっ、今から? でも、今はクライアントと商談中で……。ほ、本当かい?? わ、分かったよ。キブカ地区のいつもの場所だね? すぐに行くから、待っててね!!」


 通信を切ると、ゼノアは冷静な表情で二人に言った。



「申し訳ないのですが急用ができました。私はここまでとさせていただきます。ではっ!」


「お、おい! 何とかの魔石はどうするんだよ!?」



 レーナが引き止めるが、ゼノアは風のように立ち去ってしまった。もちろん、レーナの脚力なら、彼を逃がすこともないのだが、急に現れたモンスターたちに遮られてしまったのである。モンスターを撃破した後、レーナは断言した。



「あれ、絶対に女からの電話だぞ」


「ノノア先生の魔石……もらえないのかなぁ」



 トウコの溜息は、黒い大地の呪いをより濃いものに変えるかのようだった。

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