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エタ・コラプスエリア

 ゼノアが二人を連れ出した場所は、市街地から少し離れた鬱蒼とした森の中にある、エタ・コラプスエリアだった。エタ・コラプスエリアは、人間の呪いによって大地を白く汚染する通常のコラプスエリアとは違う。


「大地が黒いねぇ」


 トウコが言うように、まずは呪いの色が違い、異様な禍々しさに包まれた黒い世界が広がっているのだ。そんな、どこか重たい空気を放つ大地を前にしても、トウコは目を輝かせている。


「エタ・コラプスエリアなんて、なかなかお目にかかれないから、ちょっとドキドキしちゃうなぁ。良い魔石と出会える気がするよ」


 気楽なトウコに呆れつつ、レーナはゼノアを見た。


「で、ここで何をさせるつもりだ? セトバクでも狩ってこいってことか?」


 レーナの質問に、ゼノアは得意気な笑みを浮かべる。気だるそうなレーナの態度が、怖気づいたように見えたらしい。


「怖いですか? まぁ、当然ですよね。エタ・コラプスエリアの核であるセトバクは、デプレッシャと脅威のレベルが違いますから。二流のガードには攻略が難しいでしょう」


 コラプスエリアでは、強いストレスを感じた人間が、魔王の呪いに共鳴してデプレッシャとなって大地を汚染する。が、エタ・コラプスエリアはセトバクと呼ばれる謎の生物が、汚染の中心となるのだ。


「ただ、ドロップする魔石の質はランク付きの上級品だろ?」


 レーナが挑発的な笑みを浮かべると、ゼノアは顔をしかめる。



「確かにそうですが……。貴方、エタ・コラプスエリアの危険性を理解しているのですか?」


「ふん、この程度の汚染レベルなら、昔はよく休憩地帯として利用していたぜ」


「……はぁ?」



 レーナは担いでいた甲冑を下ろし、鼻歌をうたいながら装備を始める。そんな呑気な姿は、ゼノアを苛立たせた。


「で、もう一度聞くけど、私に何をさせるつもりだ?」


 しかし、レーナはあくまでマイペース。調子を乱されながらも、ゼノアは答えた。



「貴方たちが将来性のあるクリエイタとガードだと言うのなら、高難易度のクエストに分類される、このエタ・コラプスエリアで魔石をゲットしてみせてください」


「ふーん。もちろん、クリアしたときは報酬がもらえるんだよな?」



 少しも臆することがないレーナを前に、ゼノアは戦慄(わなな)くように、握った拳を震わせた。



「いいでしょう。三時間以内に魔石を獲得できたら、我が社との契約料を半額にしてもかまいません」


「はぁ? 興味ねぇよ。もっといいもん寄こせ」


「な、なんですって?」



 悔し気なゼノアだが、ここで優位な立場を失いたくないらしい。鞄を漁るとガラスケースに収まった球体……紫色のメヂアを取り出した。



「では、これを差し上げましょう。伝説の錬金術師、ノノアが加工した魔石です!」


「の、ノノア先生の魔石ーーー!?」



 真っ先に反応したのはトウコだ。どれだけの魅力を感じているのか、目を輝かせながら、ゼノアの手元にあるガラスケースに顔を寄せる。しかし、レーナにしてみると趣味の悪いガラス玉でしかない。



「なんだ、すごいのか? 誰だよ、ノノアって」


「何を言っているの、レーナちゃん。私たちの世代からすると、ノノア先生の作品なんて神が生み出した神だよ!? 逆にレーナちゃんがこの歳になるまで、ノノア先生を知らずに生きてきたことが奇跡だよ!」



 普段おとなしいトウコが、これだけ興奮するということは、確かに珍しい。が、やはりレーナにとっては、どこにもである未完成のメヂアだ。



「こんなもの、トウコにだって作れるだろ。それより、次の仕事につながる何かの方がいいんじゃないか? もしくは現金だ」


「ダメ! ダメだよ、レーナちゃん!」


「な、なんだよ。離せよ!」



 子供が甘えるように、しがみついてくるトウコに、さすがのレーナも戸惑う。



「お願いだよ、レーナちゃん。頑張って、ノノア先生の魔石をゲットしてよぉ。 ほしい! あれ、ほしいよぉーーー!!」


「ダメだ! せっかくなら、もっと良いものもらおうぜ」


「ノノア先生の魔石より、いいものなんてないよ! お願いお願いお願い!!」



 ゼノアは女二人がじゃれる姿を眺め、なんとも言えない不快感に襲われる。が、その中心には先程から付きまとう、一つの疑問が。なぜ、あのガードを名乗る女は、エタ・コラプスエリアを攻略できる前提なのだ。



「分かったよ分かったよ。そこまで言うなら、魔石をもらってやる。だから離れろ」


「ううぅぅぅ……レーナちゃん、大好きぃ」



 クリエイタの女もそうだ。自分のガードが確実に攻略すると信じている。苛立ちを抑えながら、ゼノアは疑問を口にした。


「貴方たち、分かっているのですか? エタ・コラプスエリアは、純粋なモンスターの巣窟ですよ? 下手したら、魔族のねぐらになっていることだって考えられる。足を踏み入れたら、五体満足で帰ってこれるとは、限らないのですよ?」


 そんな問いかけを、レーナは鼻で笑う。


「そういうのは、私の実力を見てから言うんだな」


 そして、レーナは甲冑を装備し、巨大な槍を背負い、腰に長剣を下げると、ふらっとコンビニまで行くような調子で、大地が黒くなったエタ・コラプスエリアに足を踏み入れるのだった。少しずつ小さくなっていくレーナの背中を眺めるゼノアとトウコだったが……。



「ひ、一人で行かせて大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよー。むしろ、私が行ったら足手まとい……いや、レーナちゃんには関係ないかぁ。それより、もう一度ノノア先生の魔石を見せてもらってもいいですか??」



 目を光らせ、ゼノアに詰め寄ってくる。さっきまで、よそよそしかったくせに、魔石を見てから人間が変わったようだ。この距離感、女性慣れしていないゼノアからしてみると、嫌な汗が出てきてしまいそうだ。加えて、頭の中にはガードを名乗る女の強気な笑顔が。



「……あああ!! 僕、やっぱりあの人の様子を見てきます!!」


「えええ!?」



 一人残されるトウコ。しかし、ゼノアが手にする鞄を見て、変な不安にかられる。彼が死んでしまったとき、レーナはちゃんと魔石を回収してくれるだろうか。


「……心配だなぁ。仕方ないから、一緒に行くかぁ」


 溜息を吐くトウコだったが、彼女は知らぬ間に自分の命を守る道を選択していた。


 なぜなら、遠い物影から、悪意を持った者たちが彼女の様子を伺っていたからである。そして、彼らは走るトウコの後を追うのだった。

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