営業マンからの挑戦状!
「ネットで見たのですが……こちら魔石工房でしたよね? クリエイタの方は、どちらですか??」
玄関に立つ男、ゼノアはここから簡単には動きそうにない。
「ダメだダメだ! うちは余所に払う金なんてねぇよ。帰った帰った」
追い返そうとするレーナだが、トウコの考えは違うようだ。
「でも、何かお仕事につながる話しが聞けるかもしれないよ? 話だけなら良いんじゃないかな」
だが、レーナは会社勤めが長かったこともあり、飛び込みの営業はとりあえず断るという考えが染み付いている。
「何言っているんだよ。何だかんだ理由を付けて金をとられるだけだぞ。それに、あの顔を見ろよ。絶対に信用できないタイプだし、何よりもイケメンじゃねぇだろ」
「レーナちゃん、そういう考えのままだと、これからの時代は生きて行けないよ?」
トウコが遠慮がちにゼノアの顔を伺うと、明らかに頬を引きつらせ、怒りを抑えているようだった。
「大丈夫です。私はお金のないクリエイタの方から搾取するようなことはありませんので。あくまで、世に出ていないクリエイタの可能性を引き出し、共に成長していければと考えているだけです。よろしければ、メヂアを見せていただけないでしょうか?」
「見てくれるんですか??」
トウコが目を輝かせる。売れていないクリエイタにとって「メヂアを見せて欲しい」という言葉は何よりも弱いものだ。
「あの未完成品しかないのですが……それでもよろしいですか??」
「もちろんですよ。制作中のメヂアでも、それが優れたクリエイタによるものかどうか、分かるものですから」
「おい、トウコ。やめておけ。こんなやつにメヂアの良し悪しなんか分かるかよ」
レーナは引き止めるが、トウコはメヂアを取りに、部屋の奥に引っ込んでしまった。嬉しそうな背中を見て溜め息を漏らしながら、ゼノアを睨み付ける。
「おい、トウコみたいな世間知らずを騙して、お前どうするつもりだ? こっちは詐欺師を相手にする余裕はねぇんだよ」
攻撃的なレーナの態度に、営業マンであるゼノアから笑顔が消えた。
「貴方、先程から失礼ですよ? 世間知らずなのは、貴方の方では?? むしろ、貴方こそなぜ彼女と一緒のいるのですか? さては、クリエイタの傍にいれば、いつかは何らかの形であやかれると思っている卑しいハイエナですね?」
「ち、ちげぇよ!」
しかし、強くは反論できなかった。レーナの中には、少なからずそんな気持ちがあったからである。
「私はあいつ専属のガードだ!」
「ガード? 粗野なだけではガードは務まりませんよ? 本気で言ってます??」
「そ、ソヤ……ってなんだ? でも、絶対に悪口だよな??」
レーナとゼノアのやり取りか激化すると思われたが、タイミングよくトウコが戻ってきた。
「お待たせしました。これが私のメヂアです!」
「ありがとうございます。どれどれ」
ゼノアはメヂアに加工中の魔石を手に取ると、どこから取り出したのか、ルーペをかざしながら、さまざまな方面から観察する。三十秒ほど、そんな時間が続いたが、ゼノアはルーペを懐に戻し、メヂアをトウコに渡した。
「どう、でしたか??」
感想。クリエイタはこれをもらうためだけに生きていると言っても間違いではない。それが、ポジティブなものであれば、これまで積み重ねた研鑽が、費やしてきた時間が、想いが、すべて報われるのだが……。
「いえ、特に言うことはありません。お時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした」
先程まで、玄関に杭を打ったかのように動きそうになかったゼノアが、風に吹かれた羽のように、立ち去ろうとするではないか。
「待て待て待て!!」
そんなゼノアを引き止めたのはレーナだ。
「トウコのメヂアを見て、どう思ったんだよ。何か一言くらいあるだろう?」
レーナに腕を掴まれ振り返るゼノアだが、その目は冷たい。
「何もありません。僕は無駄に人を傷付けることは好きじゃないので」
「なんだと……? 目利きもできねぇやつが、魔石を扱ってんじゃねぇぞ」
「……では、言わせていただきます。情熱が感じられません。人を喜ばせようとする想いも感じられない。このメヂアでは、シアタ現象を見るまでもないでしょう」
「はぁーーー!? もういい。殺す。こいつは殺しても良い人間だ」
握った拳を顔の前で震わせるレーナだが、その後ろに立つトウコは意外にも冷静だった。
「そんな風に言われても仕方ないよ。まだ手を付けたばかりだったし、何よりも魔石の質も悪かったんだから……」
トウコに引き止められたレーナは、何とか腕を組んで怒りを抑え込む。
「あー、そうだな。その辺も見抜けない節穴野郎は、相手する必要はねぇよな」
負け惜しみとも言えるようなレーナの挑発は、何の効果もないだろう。トウコはそう感じていたようだったが、意外にもゼノアは顔を赤くして、怒りを露わにしていた。
「万が一、貴方の言う通りだったとしても、ガードが無能であれば、良い魔石は手に入らない。彼女の才能が開花しないとしたら、貴方のせいですね!」
「……ほう。どうやら、私がどれだけ強いのか、分からせてやる必要がありそうだな」
巨大な獣の吐息が聞こえてきそうな、嫌な空気が漂う。普通の人間であれば、ここから逃げ出したくなりそうなものだが、ゼノアは一歩も退かない。
「そこまで言うなら、僕と勝負しましょう。貴方たちの実力……試させてもらいます」
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