反応なしは落ち込むよ
一方、トウコの方は……。ソーサ地区に戻ってから役場へ向かった。コラプスエリアを浄化したクリエイタは、その活動内容を役場に登録することが義務付けられている。
「今回の事件はニュースになっていたし、もしかしたら……」
これが実績として認められたら、メヂア制作の仕事が入ってくる可能性もあるため、トウコは仄かな希望を抱き、自然と笑みを浮かべてしまうのだった。
「すみません! これ、お願いします!」
報告書を役場のスタッフに手渡す。
「はいはい。あー、クリエイタの人? 凄いね、リトナ地区を浄化したんだ」
受け取った中年の男は、煩わしそうな表情を見せたが、それでも内容を確認すると、関心に近い感情を抱いたようだった。
「じゃあ、メヂアを出してもらっていいかな? シアタ現象も登録するから」
「は、はい。これです」
シアタ現象は国のアーカイブに登録される。もしかしたら、偉い人の目に留まって、王国専属のメヂア職人になるってことも……。
いやいや、その前にこのスタッフのおじさんが確認でシアタ現象を見てくれる。そしたら、感動のあまり偉い人に掛け合ってくれて、さらにとんとん拍子でもっと偉い人に……。
「はい、オッケーです。じゃあ、これ返すね」
「……はぁ」
トウコがポジティブな妄想を描いている間に、受付のおじさんは確かにメヂアをパソコンにつなげて、シアタ現象を確認したようだ。
しかし、何の感慨も抱いた様子はなく、少しも興味のないニュース番組でも流し見したような調子で、メヂアが返されてしまった。
「なに? まだ何か用あるの?」
呆然として立ち尽くすトウコに迷惑だと言わんばかり吐き捨てるおじさん。
「いえ、何も……」
いつか自分もそちら側になるのだろうか。
そんな嫌な未来を想像しつつ、肩を落として役場を後にした。とは言え、もしかしたら役場の上の人が今頃、自分のシアタ現象を確認しているかもしれない。
そう思うと、電話が入るのではないかとスマホが手離せなかった。
「もう五時かぁ」
夕方になれば、役所の受付時間は終わる。それ以降の時間に連絡を寄越すことはないだろう。こうなったら誰でもいい。今回のシアタ現象について、一言でもいいから感想をくれないだろうか。
「あ、そうだ。HNアーカイブに登録すれば……!!」
HNアーカイブは、クリエイタたちが自らが制作したシアタ現象をネット上に投稿し、無料で公開できるサービスだ。
利用するユーザーは多く、クリエイタの他にも「見る専」と言われる、自分ではメヂア製作は行わないものの、シアタ現象が好きでHNアーカイブで作品を漁る人間も少なくない。
そのため、ここで評価されて、名を上げたクリエイタだって数多く存在するのだ。
「よし、オッケー! リトナ区を救ったシアタ現象なんだから、大反響間違いなしだよね。うん、たぶん……」
しかし、トウコはHNアーカイブの渋さをよく知っている。どんなに大作だと思っていても、評価どころか閲覧されないことがほとんどなのだから。
「ダメだ、眠れない」
深夜になっても、HNアーカイブにアップしたシアタ現象に反響はなかった。閲覧数も二十で止まり、それ以上は伸びる様子はない。
「お母さん……。どうしたらいいの??」
猫のタラミの横に置かれた無職のメヂアに問いかけるが、もちろん返答はない。一時間は眠っただろうか。朝になっても、HNアーカイブの反応は変わりなかった。
「やるかぁ」
がっかりしながらも、やることと言えば、メヂアを作ること。しかし、魔石がなかった。
「にゃー」
さらに、タラミがパソコンの上に乗って、撫でろと主張してくる。言われるがまま、彼女の背を撫でているとお昼の時間を過ぎていた。もちろん、役場から電話はない。
「それでも、お腹が空くから、人間って不思議だよねぇ」
トウコは財布の中を確認して、ぞっとする。今月の稼ぎはほとんどない。時給800円で魔石の加工作業を延々と繰り返す日雇いバイトしか仕事がないと思うと、深いため息が出てきた。
「あ、レーナちゃんがギルドに売り込んでくれるんだった! さすがに一つくらいは仕事が入るよね。それに賭けて、今日は牛丼でも食べちゃおうかなぁ」
主食が納豆と豆腐であるトウコにしてみれば、牛丼は贅沢だ。連絡先を交換しなかったが、レーナはギルドで働いていると言っていたので、こちらから出向けばいいじゃないか。
牛丼の前に、ギルドへ行こう!
「シシザカさんなら昨日付で解雇になりました」
「へぇ??」
受付の女性はなぜか嬉しそうに答えるが、
解雇ってどういうこと??
じゃあ、ギルドと提携している工房に売り込んでもらえいないじゃん!!
「今日も豆腐と納豆か。最近、豆腐も納豆も値上がりしたし、どうしよう……」
トウコがとぼとぼと歩いていると、道端に蹲る女性の影が。
「あれ、デジャブかな?」
間違いない。レーナだった。
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