表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/155

「レーナちゃん」


呼ばれた。トウコが呼んでいる。


「レーナちゃん、起きて」



トウコに起こされている。仕事の時間だろうか。起きて用意しないと。今何時だろう。体を起こそうとするが、経験したことのない吐き気に襲われる。いや、これは吐き気ではない。自己嫌悪だ。生きている自分が恥ずかしい。価値なんてわずかほどもないくせに、生きているなんて……。



「トウコ……」


自分の存在価値を認めてくれるとしたら、彼女だけだ。そう思って名を呼ぶが、返ってきた声は彼女のものではなかった。


「起きた? 大丈夫??」



うっすらと目を開けると、そこにはユズの顔があった。どうやら、彼女の膝に頭を乗せて、眠っていたらしい。さっきまでトウコに呼ばれていたと思っていたが、気のせいだったのだろう。



「私は、何を……?」


戦士としての本能で、自分の状況を確認しようと、彼女に尋ねる。


「安心して。いま呪いを吸い出しているところだから」



彼女の手にはメヂアがあった。さっき見た、黒いメヂアと違う。ちゃんと呪いを浄化するためのものらしい。そう言われてみると、さっきに比べてかなり気持ちが楽だ。ただ、自己否定の気持ちが消えたわけではない。



「……私は、生きていてもいいの?」



誰でもいい。肯定してほしかった。ユズに問いかけると、彼女は頷いた。



「もちろんよ。だって、私はレーナちゃんを必要としているもの」


「……私が、必要?」



ユズが頷くと小さな安心があった。わずかなものかもしれない。でも、染み渡るような温かさがあった。すると、今度はユズが問いかけてくる。



「ねぇ、貴方も分かるでしょ? 私たちがどれだけ苦しい思いをしているのか」



私たち、とはクリエイタのことを指すのだろう。もちろん、それは嫌というほどに理解した。頷くの苦しかったが、少しでも彼女を肯定してあげたくて、わずかに顎を引いてみせる。ユズは理解を得たことが嬉しかったのか、微笑みを浮かべた。



「本当にいつも苦しいの。寂しいの。死にたくなるほどつらいのよ」


ユズが頬を撫でる。冷たい指先が心地よかった。


「お願い。私を助けて。貴方が必要なの」



切迫したような表情で、懇願するユズを見ると、その気持ちに応えたかった。何よりも、必要とされてるならば、応えたい。そうすれば、生きていてもいい。生きる資格を与えてもらえるはず。



「どうすれば……?」



何をすれば認めてもらえるのか。それを確認すると、ユズは目に涙を浮かべて感激しているようにも見えた。



「私のガードに……。ガードになって、守ってほしいの」


「……分かった。ガードになって、ユズを守る」


「……ありがとう」



すると、ユズはレーナの瞳に一枚の紙を映した。


「じゃあ、ここに血判を押して。契約を結びましょう?」


指先に小さな痛みが。どうやら、刃物で傷付けられたらしい。よかった、手間が省ける。そう思うくらい、レーナは契約を結ぶ気だった。


だが、彼女は知らない。これは魔族が使う血の契約。


これを通して約束を交わした場合、いかなる方法を持っても裏切りは不可能となる。つまり、レーナはユズのものになるのだ。ゆっくりと、レーナの指先が契約書に近付くが……。



「あれ?」


レーナの懐で何かが熱を持っている。この感覚、いつかも経験したような……。すると、鈍かった思考が少しずつはっきりする。だるかった体に力が戻り始めた。


「ど、ど、ど……どうなってんだ!?」



レーナは契約書を振り払い、体を起こしてユズから離れる。


「なんだ? 何が起こっていたんだ!?」


自分を確認するように、体の至るところに手を当てるが、異常はない。そうだ、怪我をしたわけじゃない。心を蝕まれていたのだ。レーナは懐から感じられた熱の正体に気付く。



「これ、トウコが渡してくれた……」



そう、出発前にレーナから受け取った、赤いメヂアだ。どういう仕組みか分からないが、レーナを蝕んでいた呪いを吸い取ってくれたらしい。まだ本調子ではないが、思考するにも、体を動かすにも十分だ。まともになった思考で、現状を整理する。そうだ、いま自分はかなりまずい事態に追い込まれていたのだ。



「……そうだよ。あと少しで呪いに飲まれるところで、危うく妙な契約を結ぶところだったんだ」


青ざめながら、自分を追いつめていた脅威を思い出す。


「……お前、私に何をするつもりだったんだ?」



つい先程まで自分を介抱していた女を睨みつける。しかし、彼女は少しも表情を変えない。レーナは確信する。こいつは敵だ。しかも危険な……。



「何者なんだよ、お前は!」



つい感情的に声を上げるレーナだったが、彼女の敵……ユズは膝をついた状態のまま、ただわずかに微笑むだけだった。

感想・リアクションくれくれー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うわぁぁ…次のページがないぃ…!! ここでお預けなんて酷いです…でも、そこが好き!! しれっと「レーナちゃん」と呼ぶユズに危険指数跳ね上がってからの、遠隔トウコさんの愛情…たまらない。 クリエイタの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ