きっと二人なら……?
「レイミちゃんがいなくなると寂しいなぁ」
次の日の朝、農作業中にユズが声をかけてきた。
「クラスが違うと、朝の仕事も別々になるのか?」
暗い表情でユズが頷く。
「クラスによって、畑の場所が違うから。自分で作ったものを食べる。それを実感することが、創作の幅につながるんだって」
「そういうものか?」
「らしいよ。だから、レイミちゃんと一緒に続けたかったんだけど」
本当にがっかりしているらしく、溜め息を吐きながら肩を落とすユズ。しかし、レーナは彼女の気持ちが分からなかった。
「別に悪い気はしないけどよ、どうしてそこまで私に親しみ持ってくれたんだ?」
まだ数日の付き合いだ。多少の共感はあったわけでも、強く分かち合ったわけでもなければ、何かを一緒に乗り越えたわけでもない。なのに、ここまで別れを惜しんでくれるわけが、分からないのだ。しかし、ユズは寂しそうな笑顔を見せるのだった。
「何て言うか……温度だよ」
「温度?」
「うん。ここにいる人って、創作に凄くのめり込んでいるでしょ? でも、私はそこまでの気持ちは持っていない」
確かに、ユズは周りから浮いているように見える。ナナミを抜けば、レーナ以外の人間に話しかけられている姿も見たことないし、何よりも表情が違う。彼女が言う通り、入れ込み具合が違うのだろう。
「だから、レイミちゃんを見たとき思ったの。この人は私と似ている気がする、って」
レーナは何も言えなかった。なぜなら、自分は創作を本気で取り組む気がないのだから、そう思われても仕方ないからだ。表情を取り繕うレーナに気付かず、ユズは続ける。
「だからさ、レイミちゃんと一緒なら同じ温度で頑張っていける気がして。そしたら、こんな私でもいいメヂアを作れると思うんだよね」
しかし、その機会は失われてしまった。無意識とは言え、変に期待させてしまったことをレーナは申し訳なく思うが、ユズは天啓が降りたかのように、明るい表情で顔を上げた。
「そうだ。もし、ここで満足できるメヂアを作れるようになったらさ……私と一緒に、魔石工房を立ち上げない?」
「えええ!?」
突然の提案に動揺するレーナ。しかも、それはどうやっても実現できない未来だ。
「いや、私は……」
レーナが言葉に詰まっていると、その気持ちを察したのか、ユズの笑顔がしぼんでいった。
「そこまで本気で受け取ってくれなくても大丈夫だよ。勢いで言っただけだから」
何とか取り繕って誤魔化そうとする彼女の表情が痛々しい。罪悪感を抱く必要はないのかもしれないが、レーナの人情はどうにかしてやりたい、という気持ちに苛まれてしまうのだった。
「本当に、変なこと言ってごめんね」
「その……何て言うか、こっちも悪かった」
ユズは首を横に振る。
「いいのいいの。素敵な相棒をゲットできなかったのは残念だけどさ、それでも私はダラダラと続けるだろうから。難しくても、孤独を感じても、どうせ続けるから。表現したいものもあるしね」
それ以上、会話が続かなかったため、二人は農作業に集中した。作業の時間が終わると、シノダがBクラスの部屋に案内すると言うので、荷物をまとめることになったが、その最中にレーナは思い出す。
(そういえば……トウコも同じことを言っていたな)
ギルドの受付嬢をクビになる直前。トウコと再会した日のことだ。レーナと一緒ならいいメヂアが作れる気がする。だから、一緒に魔石工房を立ち上げないか、と。それだけではない。どんな状況であろうと、クリエイタを続けるのは自分の性だということも、トウコが語っていたはず。
(……クリエイタってやつは、どいつもこいつも同じことを考えるんだぁ)
呆れつつも、トウコが必死に創作と向き合う姿勢を思い出し、今までとは少し違う感情が込み上げてくる。自分が思っている以上に、トウコは努力して、苦しんだのだろう。もう少し支えてやれる場面があったのではないか。それは、ユズの葛藤に共感しただけでなく、自分がメヂア制作に挑戦したところも大きいのかもしれない。
(これからはもう少し労わってやるか。……それにしても)
ユズに誘われたときの言葉を頭の中で反芻しながら、レーナは自分自身の性質に疑いを持つ。
(なんで私はクリエイタに好かれるのかね。……せっかくなら、イケメンに好かれたいのにぃ)
Bクラスの居住区を案内するため、先を歩くシノダの背中を眺めながら、レーナは深く溜め息を吐くが、同時に本来の使命を思い出す。
(明日の夜が勝負ってところか。気を引き締めないとな)
しかし、レーナは知ることになる。かつてないほどに深い絶望を。
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