初めてアップした気持ち、覚えますか?
「それでは、Cクラスの進捗発表会を始めます」
穏やかな笑みを浮かべるシノダ。
(し、シノダさんがいる!? ってことは……私のシアタ現象も見られちゃうってこと??)
レーナは赤くなる頬を両手で隠す。が、シノダはそんな彼女に気付くこともなく、淡々と進行を務めた。一人ずつ自分が作ったメヂアを投影機に置き、シアタ現象をスクリーンに映し出す。レーナは息を飲んでそれを視聴するのだが……。
(やっぱり……トウコってすげえな)
感想らしい感想は、すべてトウコに対する賞賛に変わっていく。普段から見ていたトウコのシアタ現象。自分で作ってみて、他人が作ったものを見て、そのクオリティを思い知らされたのだ。ただ、教室内にいる人々のリアクションは悪くないものばかりが続く。
「素晴らしいですね。中盤の表現が滑らかで、テーマ性の重みも感じられました」
「最後は次回作の伏線でしょうか。気になる終わり方だったので興味が惹かれましたね」
「僕は導入部がキャッチーで好きでしたね。どんどん引き込まれました」
まるで、示し合わせたように褒め合っている。本当にこれでいいのか、と疑う反面、自分の作品が見られたとき、否定されることはないだろう、と安心した。
「ユズは完成させられたのか?」
何となく隣のユズに聞いてみると、引きつった笑みの後、肩を落とされてしまう。
「昨日、遅くまで粘ったんだけど……。ぜんぜん上手くいかなくて」
そう言われてみると、目元が黒くなっている。まぁ、自分も人のことは言えないのだが……。
「では、次レイミさんお願いします」
「あ、はい」
思ったより、早く自分の出番が回ってきてしまった。やや緊張しながら席を立ち、投影機にメヂアを設置する。読み取りのボタンを押し、投影機がシアタ現象を読み取る音が聞こえてきた。
(な、なんだこの気持ち……)
変な緊張感で胸が締め付けられる。初めて魔王軍の幹部と戦ったとき。魔王城に踏み込んだとき。魔王をずたずたにして勝ちを確信したときすら、こんな緊張感を抱くことはなかったのに。
(ど、どうしよう。見てるやつらが全員白けた顔したら)
そう言えば、トウコはいつもこんな気持ちだったのだろうか。緊張する、と彼女が言うたびに「大丈夫だ」と無責任に言ってきたが……なんだか申し訳ない気がしてきた。
「あの、レイミさん? 再生ボタン、分かります??」
「え、あ、ごめんなさい」
緊張しすぎて、再生ボタンを押してなかった。押さないと。
(お、押さないとダメか? これを押してしまったら、これまでの人生すべてが否定されてしまうような、妙な恐ろしさがある。これを押した後では、押す前の私には戻れないような……。そんな覚悟を求められるような気すらする。恐ろしいぜ、メヂア)
それでも、教室にいる全員が自分の指が動くかどうか注目されていると思うと、躊躇ってはいられなかった。
(えーい、やってやるよ!)
ポチッ、と再生ボタンを押すと、スクリーンが黒く塗りつぶされた。
(…………あれ?)
固唾を飲んで見守っていたが、いつまで経ってもシアタ現象が再生されない。
「どうしましたか?」
シノダが電気を付けて、確認に来る。投影機は問題ないようだが、レーナのメヂアを見て、何かに気付いたようだった。
「レイミさん。このメヂア……投影のために必要なパスが作られていませんよ??」
「えっ??」
よく分からないが、シアタ現象を再生するための加工が足りてなかったらしい。つまり、今のままではシアタ現象を再生できず、ここにいる人々にお披露目できない、ということらしいが……。
(なんだろう。ほっとしたような、がっかりしたような)
複雑な感情の波に、レーナの魂は抜けつつあったが、シノダが手に置いた彼女のメヂアに顔を近付ている。
「しかし、素晴らしい加工技術ですね! ここまで滑らかなメヂアを作れるなんて、錬金術師と呼ばれる人々と同じレベルですよ??」
「そ、そうですか?」
すると、教室の人々がレーナのメヂアを一目見ようと、席を離れて、シノダを囲むようにして集まった
「本当だ、凄い!」
「こんなの見たことない」
「かなり美しいシアタ現象を映すでしょうね!」
誰もが興味津々にレーナのメヂアを見つめ、褒めそやすではないか。一通りの人間がレーナのメヂアに対して、肯定的なコメントを残した後、最後にシノダがこんなことを言った。
「これはBクラスに上がれるレベルかもしれません。ちょっとスタッフの方で検討してみますね」
「は、はぁ」
何がなんだか、とレーナは自分の席に戻るが、ユズが興奮気味に迎えてくれた。
「レイミちゃん、凄いね! きて一週間も経たないでBクラスに上がるなんて、今までいなかったんじゃない??」
「まだ決まったわけじゃないから……」
とは言ったものの、心臓が妙に高鳴っている。あまり眠っていない疲れと、多くの人に評価された興奮が混じったせいなのか、頭がクラクラする。
(でも、せっかくなら……)
あれだけ、必死に作り込んだのだ。せっかくなら、シアタ現象も見てほしかった気がしてしまう。興奮したような落胆したような、よく分からない気持ちのまま、夜になって食堂で過ごしていると、シノダが声をかけてきた。
「レイミさん。ぜひBクラスに上がってください。よかったら、明日の朝から」
「わ、わかりました」
結果オーライ、というやつか。どうせ、こんなに褒めてもらえるなら、やはりシアタ現象を見てほしかったような……。またしても複雑な感情に振り回されてしまう。
(私をこんな気持ちにさせるなんて……やっぱり恐ろしいぜ、メヂア)
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