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大天才だから

ナナミは途中までなんの備えもなく、無造作に近付いてきたが、レーナの射程に入る直前で、その危険性に気付いたようだった。


「……何者ですか?」


そして、ゆっくりと慎重に腰を落とす。



(ちっ、無警戒のまま、もう少し近付いてくれれば、すぐに気絶させられたのによ)



だが、この距離で警戒されてしまったら、不意打ちは難しいだろう。レーナはゆっくりと構えた。ナナミの腰には通信機らしきものがある。だが、それを手にする隙を与えるつもりはない。


レーナは地を蹴って一気に間合いを詰め、渾身の右ストレートを伸ばす。その威力とスピードは並の勇者であれば、意識を奪うだろう。しかし、ナナミは頭を傾けて最小限の動作で躱すと、反撃の右フックを放ってきた。


レーナも身を退いてそれを躱しつつ、膝を突き上げてボディの破壊を試みる。が、ナナミの反応も速い。素早く距離を取って、それをやり過ごすのだった。



(へぇ。今のテンカオ、完璧なタイミングだと思ったんだけどなぁ……)



トップクラスの勇者だとしても、簡単には躱せはしないはずだった。それが余裕を持って身を退かれるとは。



(この若さでその身のこなし。天才と言えるかもしれないな)


レーナは再び踏み込み、前手で神速のジャブを二度見せる。距離を立て直そうと後退するナナミだが、レーナはさらに踏み込みつつ、鳩尾を狙った前蹴りで追撃を放った。


「ぐっ!?」



身をよじって、レーナの一撃を腹筋で受け止めるナナミ。なかなかの反応だ。さらに詰め寄るレーナだが、ナナミが顔面に向けて蹴りを突き出してきたため、足を止める必要があった。そこに、ナナミはさらなる一撃。半歩踏み込みつつ、華麗に回転し、後ろ回し蹴りを放つ。



(速い! そして、何て身軽なんだ!?)



レーナはガードで受け止めるが、ダメージと言えるほどの深い攻撃ではない。ただ、連続して受けるわけにはいかないので、パンチのフェイントを見せて、後ろに下がらせた。



(スピードも精度も天才と言って間違いないだろう。だがな……)


レーナは目出し帽の下で思わず笑みを零す。


(大天才の私に比べたら、まだまだだな!)



レーナは軽いステップを踏みながら、ナナミとの距離を詰める。そして、射程に入ったと判断した瞬間、ナナミの顔面に向けて蹴りを突き出した。先程、ナナミが見せた蹴りと同じ軌道である。ナナミの方も先程のレーナと同じように身を退いて躱して見せるた。が、レーナはくるりと回転すると、やはり先程のナナミと同じように回し蹴りを――。



「ぐあっ!?」


しかし、ナナミはレーナと同じようにガードで受け止めることはできなかった。なぜなら、レーナはナナミの模倣で側頭部を狙うと見せかけ、バックスピンキックによって腹部に踵を突き刺したからだ。


「う、うう……」



恐らく、経験したことのない痛みに蹲るナナミ。それでも、腰に下げた通信機で仲間を呼ぼうとした。


(させねえよ!)


ナナミが手に取った通信機を蹴り飛ばし、敗北に顔を歪める彼女の姿を見下ろす。



(ま、これが最強の勇者と言われた私の実力よ。悔しいなら励むんだな)



心の声が聞こえたかのように、ナナミが悔し気に顔を歪める。それを見て満足したレーナは、その場を去るが、痛みに動けないのであろうナナミは追ってこなかった。


これ以上、Aクラスの施設に侵入を試みるのは難しいだろう。せめて別ルートを見つけられないか、と模索するレーナだったが、ナナミが痛みから回復して仲間たちに指示を出したのか、多くのスタッフが歩き回っている。



(仕方ない。今日は引き返すか……)



レーナは無事に自室へ戻り、目指し帽を脱いで、ほっと息を吐いた。恐らく、明日の夜は警備が強化されてしまうだろう。



「どうしたものかな……」



次の日、朝を迎えて農作業中にユズと話したが、話題は明日の進捗発表会のことだった。



「レイミちゃん、知ってた? もし、メヂアの完成度が評価されたら、Bクラスに上がれるかもしれないんだよ」


「Bクラスに?」


「そう。Bクラスでさらに評価されたら、Aクラスに上がれるって仕組み」


「なるほどなぁ」



Aクラスに上がる。それは難しいかもしれない。だが、Bクラスなら……。Bクラスの人間が使用する施設なら、Aクラスが使う施設に近い。だとしたら、Bクラスに上がってしまえば、潜入がはるかに楽になるはずだ。



「よし、やってやるか……!」


「あ、レイミちゃん……やる気出ちゃった?? さっそく仲良くなれたのに、Bクラスに行っちゃったら寂しいよぉ」



目に涙を溜めるユズ。ここまで親しみを持たれてしまうと、何だか申し訳ない気もするが、レーナもクリエイタを目指してここに来たわけではない。残り時間は少ないが、できる限りメヂア制作に力を入れようと決意するのだった。



「……よし、結構良い感じじゃないか??」



深夜。いや、早朝と言える時間まで、レーナはメヂアを作り続けた。もちろん、学生時代に魔石の加工は行っていたが、シアタ現象を込めて、まともなメヂアらしいものまで作ったのは初めてのことである。そう思うと、このオレンジ色の球体を愛おしく思うレーナだった。

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