深夜の捜査
昼間も適当に作業を行ったが、横に座るユズはひどく感心していた。
「レイミちゃん、本当に上手ね。久しぶりにメヂアを触ったとは思えない。本当に、どんなシアタ現象を作るの?」
悪い気はしないが、反応に困ってしまう。
「いや、私なんか全然だよ。私の知っているクリエイタは、こんなものじゃないから」
「それは単純に費やした時間の差でしょう? レイミちゃんも真剣に頑張れば、その人みたいに凄いメヂアを作れるんじゃないから」
「クリエイターなんて、そんなに簡単な話じゃないだろ」
なんとか話を切り上げ、ユズの作業を盗み見していると、確かに彼女は上手くできていないようだ。何度も唸りながら、少しずつ魔石を加工している。思わずレーナはアドバイスしたくなる場面もあったが、下手なことを言って傷付けるわけにもいかず、ただ見守ることにした。
「やっぱり、私ダメかも」
食堂でユズと一緒に夕食を取っていると、彼女がスプーンを置いてから、頭を抱えてしまった。
「才能がなくて呆れるよ。人生投げ出すみたいにこんなところに来たけど、ぜんぜん上達しない自分に嫌気がさす!」
あー、見たことある。トウコもこんな感じだ。レーナは頬が緩んでしまいそうになったが、何とか耐えてユズを励ます。
「自分を責めるより、楽しいって気持ちを優先しようぜ。そうしている間に、自分の楽しいを共感してくれる人が増えるはずだから」
その言葉に納得してくれただろうか。ユズは眉を寄せながらレーナを見て言う。
「じゃあ、レイミちゃんは楽しいの?」
「そ、それは……」
言い淀むレーナに、ユズは小さく吹き出す。
「ごめんごめん。意地悪な言い方だったよね。レイミちゃんみたいに、上手くできたら私も楽しいんだろうけど」
「そんなつもりじゃないって」
「ううん、本当のことだよ。私、メヂア作りは苦手かもしれないけど、メヂアの良し悪しを見抜く力はあると思うんだ。だから、レイミちゃんがどんなシアタ現象を作るのか楽しみ」
そういえば、明後日は簡単な進捗発表会らしいものがあるのだとか。レーナも作りかけのメヂアを発表し、Cクラスの人たちと批評し合うことになるのだが、それまでに例の息子を探し出し、この仕事を終えたいと思うのだった。
目を覚ます。計算通り、真夜中の三時だ。レーナは隠していた目出し帽を被ると、自室の窓からこっそりと外に出て、Aクラスの居住者たちが使う建物へ向かった。行き方は事前に調査してあったため、迷うことはなかったが、途中でライトを手にしたスタッフらしき二人組が徘徊しているところを見かける。
(見回りって……まるで、刑務所だな。それとも、何か外敵からの攻撃を恐れているのか?)
疑問を後回しにして、さらにAクラスの施設を目指すが、レーナの感覚に干渉する何かが。
(見られている? いや、私の気配を察知したやつがいるようだな……)
それが何者か。レーナはすぐに察した。ナナミという女に違いない。昼間、ユズはあの女は施設の警護を行っていると言っていたではないか。
(あの女に見つかるのは厄介だな)
できるだけ気配を消して、Aクラスの施設へ向かうが、ナナミの感覚は鋭い。恐らくはわずかな気配を感じて、追跡しているのだろう。
(嫌な感じがする。これは……逃げているつもりが、追いつめられているかもしれないぞ)
レーナの悪い予感は当たっていた。ナナミの気配から離れようと移動していると、Aクラスの施設を発見するが、その入口は鍵がかかっている。引き返さなければ、と思ったが、素直に来た道を戻るとナナミに遭遇してしまいそうだ。こうなったら、森の中に隠れるか。いや、そんなことをしたら地理に詳しい向こうが有利だ。
「動くな、侵入者」
心の中で、舌打ちする。迷っている間に、ナナミに追いつかれてしまった。しかも、建物と建物の間にある細い通路だ。ナナミと逆の方向は、鍵のかかった扉があるのみ。つまり、ナナミを突破しなければ逃げ道はないのだ。
(仕方ねえ。やるか……)
レーナは目出し帽の角度を調整し、戦闘に備えた。
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