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若き才能

それから、レーナは教室に戻って作業を続け、夜は自室から抜け出して、敷地の地形や配置を調査した。これで明日のAクラスの施設に侵入するための準備は万全。すぐ眠ることにしたが、早朝に目が覚める。レーナの自室の前に誰かが立つ気配があったからだ。



「レイミちゃん。起きて」


ユズの声だった。


「朝はちょっとしたお仕事があるのよ。シノダさんに聞いたでしょ?」



そういえば、昨日の夕食前にあのイケメンがそんなことを言っていた。確か簡単な畑仕事だったはず。すぐに着替えて顔を出すと、ユズが「おはよう」と笑った。



「今日はガードの皆さんが魔石を持ってきてくれる日でもあるのよ。早い者勝ちだから早くしないと」


「ガードが??」


「そう。私たちが使う魔石を取ってきてくれる、ありがたい人たちなの」



本来なら、それが自分の役目なので、誰かが持ってきた魔石を自分が加工すると思うと変な気持ちだった。外に出ると改めて澄んだ空気を感じる。冷たい空気で肺を満たすだけで気分がよかった。



「レイミちゃんは草むしりをお願い。ここから、あっちまで」


ユズが指で示した範囲はそれなりに広い。普通であれば、一日では終わらないだろう。


「もちろん、今日中に全部ってわけじゃないから」



なんだ適当でいいのか、とダラダラと作業を始めるレーナだったが、スタッフのシノダが声をかけてきた。



「あ、レイミさん。一日経ちましたが、どうですか?」


「あっ、はい! 本当にいい場所だなー、って思ってます!」


「よかったよかった。あ、草むしりですか? ここが綺麗になると助かるな、と思っていたんです。よろしくお願いしますね」


「……頑張りますね!」



久しぶりにイケメンが自分に期待を向けている。そう思うと、レーナは集中して草をむしってしまうのだった。



「ふぅ。やっぱり体動かす方が性に合ってるな」



汗ばんだ額を拭うと、様子を見に来たユズが目を丸くして、呆然と周囲を見渡した。



「レイミちゃん……。もう終わったの?」


「え? ダメだったか??」


「そ、そういうわけじゃあ……」



かなり広い範囲を任されてわけだが、レーナは完全に終わらせてしまった。しかも、掃除機で塵を吸い取ったごとく、草が完全消滅している。



「これはシノダさんも喜びだろうな」


ユズの呟きに、レーナはやる気が込み上げてしまう。


「他には?? 何やればいい!?」



そこから、野菜の収穫を手伝っていたが、遠くからシノダの声が聞こえてきた。



「クリエイタの皆さーん。魔石が届いたので、選んでくださーい」



すると、畑で作業していた人々がおもむろにシノダの方へ向かっていく。レーナもユズに「行こう」と声をかけられたので、そちらへ向かった。馬車の荷台からたくさんの魔石が降ろされているが、その作業はガードと思われる数名が行っている。



(なるほど。少しはできそうなやつが集まっているみたいだな。……ん?)



レーナがガードの連中の実力を見定めていると、妙な視線に気付いた。馬車の傍らに立つ若い女だ。たぶん、二十代前半だろう。



(まずいな。まさか、私の実力を察知するレベルのガードがいるなんて……)



達人レベルであれば、見るだけでその実力を見極めることも可能だ。実際、レーナが見る限り、彼女の実力は勇者レベルに達している。レーナはすぐに気配を消し、自らの闘気を限りなくゼロに抑えた。



(これで気のせいだと思ってもらえると良いのだが……)


潜入調査の難しさに溜め息一つ吐きたくなるところだったが、横にいるユズが急に声を上げた。


「ナナミ! いつもありがとうね!」



どうやら魔石を持ってきたガードに感謝を伝えたようだが、よりによってそれは例の女だった。ナナミと呼ばれた女はユズに向かってはにかむような笑みを見せると、ペットのようにユズの方へ寄ってくる。



「たくさん取ってきた」


「うん、ありがとうね」


「……この人は?」



短い銀髪を揺らしながら、ナナミが視線をこちらに。しかも、ただ見るだけでなく、闘気を探ってきているではないか。



(このガキ、やるじゃねえか。でも、それくらいじゃあ、感じ取らせないぜ)



上手く闘気を隠すレーナを見て混乱するナナミに、ユズが教える。



「この人はレイミちゃん。昨日、入居したばかりの人なの。だから、ナナミも優しくしてあげてね」


「……うん」



短い会話でナナミが馬車と共に去って行ったので、正直ほっとするレーナだったが、油断はできないと気を引き締めた。



「今のナナミって子は?」


念のためユズに確認すると、彼女は笑顔で答えた。


「ガードの子よ。普段はこの辺りの警護もしてくれる、心強いガードなの」



今夜、Aクラスの建物に潜入するつもりだったが、面倒なことになるかもしれない、とレーナは思うのだった。

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