貴方を忘れない
「では、ウィスティリアさんが影響を受けたクリエイタを挙げるとしたら、どんな方がいるのですか?」
インタビュアーの質問にトウコは興奮気味に答える。
「一番影響を受けた錬金術師は間違いなくノノア先生です! 初めて見たときは本当に衝撃でした。目を閉じると、先生のシアタ現象が勝手に流れてくる。それくらい、何度も見返しました」
「ノノア・イカリヤですか。でも、作風は全然違うのですね」
「他にも影響を受けているからだと思います。同世代のクリエイタだとしたら誰だろう。うーん……」
トウコは首をひねって、自分の血肉となった作品を思い出す。
「ソフィさん!」
真っ先に思い出した名前はそれだったが、インタビュアーは聞いたことがないらしく、困惑したように眉を寄せる。
「ソフィ・ウラデリスさんです。凄いクリエイタなんですよ! たぶん、同世代のクリエイタなのですが、いつも印象に残るメヂアばかり作る方で……うん、本当に影響受けたなぁ」
「えーっと……。もう少し有名な方だと助かりますけど」
「いえ、ソフィさんの名前は絶対に載せてください。きっと彼女も……ずっと戦い続けているはずですから」
「……分かりました」
インタビュアーは困りながらも肯定的な笑顔を見せてくれたので、トウコは安心して取材を終えられたのだった。
家に帰り、トウコは久しぶりにNHアーカイブをチェックして、自分以外のクリエイタがどのような活動を続けているのか、チェックしてみることにした。もちろん、最初に目を通したのはソフィ・ウラデリスのアカウントだ。
「あ、新作上がっている!」
ソフィのアカウントは、つい数日前に短いシアタ現象をアップしている。
「……やっぱり、凄い」
トウコは小さく頷いた後、自分の中で何かが輝き始める感覚を抱いた。
「よし、私も頑張らないと。ソフィさんが驚いてくれるような、凄いメヂアを作るんだ!」
顔も知らない同志のことを想い、トウコは奮起するのだった。
「むう……。レーナちゃんから鬼電がきているではないか」
魔王は着信履歴に残る、ウィスティリア魔石工房の番号を見て眉を寄せた。
「さては、魔石の出所がバレたか。ふん、次会ったときは殺されるかもしれんな」
ここは、王都の中でも高級店ばかりが並ぶ繁華街。その中でもひときわ高く美しい造形のビルだ。魔王はグラスの中のワインを揺らしながら、次はどういった方法を試してみるか、と考えいると、エレベーターから一人の女が降りてきた。
「作戦は失敗だったみたいね。やる気、あるの?」
誰もが恐怖するはずの魔王を前にして、少しも臆することのない態度。不敬に怒りを見せると思われたが、魔王はただ微笑むのだった。
「そう言うな。向こうには最強の勇者がついている。簡単には潰せはしないさ」
「最強の勇者?」
女は首を首を傾げる。心当たりがないらしい。
「そうだ。レーナ・シシザカ。この世界の至宝とも言える存在よ」
「……そう。でも、やりようはある。違う?」
「当然よ。余の計画……聞くか?」
二人は姦計を交わし合う。それは、ただ一つの魔石工房を潰すためのものではなかった。この世界の価値観が大きく変わる。そんな予感があった。
―― 続く ――
第1章の第5話はここまでです。いかがでしたでしょうか。
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一週間ほどたったら再開しますので、それまでは
私を忘れないで




