ファン!
ゼノアは電話先のロザリアに確認する。
「トウコさんを襲ったマフィアは壊滅した、ってことですね??」
『はい。ナイトファイブまで駆り出されたので、無事に全員お縄です。ボスのスチュアートに関しては、部下の裏切りにあって命を落としたとか』
「よかったぁー。やっと平和な日常が戻ってくるんだぁ」
『そう考えて問題ないでしょう』
「いやぁ、本当にお世話になりました。あ、すみません。トウコさんもお礼したいと言っていたのですが、今日は取材が入っていて」
『別に問題ありませんわ。先生もお忙しい身なので』
簡単な挨拶の後、電話を切り、ゼノアは大きく溜め息を吐いた。
「命が狙われていないって……最高だなぁ」
一方、トウコはレーナに付き添われ、取材を受けるため招かれた出版社へ向かっていた。途中、トウコは誰かの気配を感じた気がして振り返る。
「大丈夫。悪意を持ったやつはいねーよ」
隣のレーナが横にいても、たまに背後が気になってしまう自分が嫌だった。
「だよねー。自意識過剰かもしれないけど、まだ気になっちゃうんだ」
少しずつ不安は消えていると思うが、また同じことが起こったら……。そんな恐怖は常に頭の中に漂っていた。
「ノノア先生が言っていたんだよね。メヂアを作っていると、理不尽に殺意を向けられることがあるって。いつか私もそうなるのかな?」
「いいじゃねーか。そんなの、有名になった証拠だろ?」
呑気に言うレーナだが、トウコからしてみると自分の作品が誰かの負の感情を刺激しているなんて、やるせない気持ちになってしまう。それなのに、レーナは挑発的に笑うのだった。
「じゃあ、そんなやつがいたとしてよ、お前はメヂア作りをやめられるのか?」
少し想像してみる。が、結論はすぐに出た。
「やめられない」
「だろ? むしろ、お前にケチ付けるようなやつらを黙らせるメヂアを作ろうとする。それがお前じゃないか」
「確かに。うん、そういう人だって感動させたい!」
「だったら、付き合ってやる。誰を敵に回したとしても、お前が嫌になるまでな」
微笑み合う二人だったが、レーナが何かを察知し、トウコを庇うように前へ出た。
「誰だ!?」
二人の行く先を阻むように男が一人立っている。メガネにやたらと毛量の多い整えられていない髪、よれよれのTシャツが特徴的で、脅威というほどではないようだが……男は二人に近寄ると満面の笑みを浮かべた。
「トウコ・ウィスティリアさんですよね?」
「そ、そうですけど……」
警戒しつつ答えると、男の笑顔はさらに明るいものになる。
「やっぱり! ずっとファンなんです!! 大ファンなんです!!」
近付こうとするが、レーナが「寄るな寄るな」と制止する。
「あの、僕……シノノメです!」
「シノノメさんって……いつもコメントしてくれる、あの人??」
「ですです! いや、最近文句ばっかり言ってすみません。過去の作品が好きすぎるあまり、今の作風をつい否定していましたが、昨日トウコ先生の作品を全部見直したんですよ。そしたら、今の作品は過去作と地続きになっていて、あくまでテーマ性は同じなんだなって。そう思うと、なんだか気持ちが熱くなっていてもたってもいられなくなったんです!」
シノノメは一呼吸に説明した後、レーナの制止を押し切るように身を乗り出す。
「本当にトウコ先生の最高です! 一生ついて行きます! だから……サインだけでもいただけないでしょうか??」
「わ、私のサイン??」
「はい。ぜひ!!」
トウコは混乱しつつも、シノノメにノートとペンを押し付けられたので、今まで考えたこともなかったサインをそこに記した。
「頑張ってください! トウコ先生の新作を見るために生きている。そんな人間がいるってこと、忘れないでくださいね!」
満足したのか、シノノメは何度も手を振りながら、二人から遠ざかって行く。それをしばらく眺めるトウコだったが、完全にシノノメの姿が見えなくなると、それまでの不安が風にでも吹かれて消え去ったような、いい笑顔を浮かべていた。
「レーナちゃん、私頑張れるかも!」
「あいつのせいで、こっちはどれだけ大変な想いをしたことか……。ぶん殴っておけばよかった! いや、今からでも!!」
「ダメだよ、レーナちゃん。私のファンなんだから。そう、ファン。私のファンなんだよ!!」
ファンというワードを繰り返すトウコは、頬に手を当ててうっとりとした顔を見せる。そんな彼女を見ると、レーナは呆れつつも自然と笑みがこぼれるのだった。
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