シアタ現象
「なるほど」
ダイブを終えたノノアは呟き、さっそくメヂアに魔力を込め始める。それに気付いたロザリアは確認せずにはいられない。
「先生、ここで起こすつもりですか?」
こんな街中で、ノノア・イカリヤのシアタ現象が発生したら、色々な意味でショックを受ける人が続出してしまうだろう。ノノアは苦みを思い出したような微笑みを浮かべる。
「大丈夫。ちゃんと調整して小さいものにするよ。幸い、この人もデプレッシャ化しているわけではないし」
込める魔力と吸収する呪いの量によっては、シアタ現象の規模は小さくて済む。ノノアの力に反応し、メヂアが宙に浮き始めると、謎の女……ソフィから呪いを吸いだし始めた。そして、どこにでもあるようなビルの壁に、白いキャンパスが現れる。
「それじゃあ、シアタ現象を始めるよ」
ノノアの言葉の後、白いキャンパスが暗転した。
青い空に浮かぶ白い十字は、あまりに巨大で神の存在を確信させた。手を伸ばす。どうか助けてください。どうか私を認めてください。祈りながら、許しを請うため、ただ手を伸ばした。しかし、その腕は二つに裂ける。
――絶叫。
裂けた腕は激しく血をまき散らし、白い骨が露出する。痛い。痛い。なぜ、私だけがこれだけの罰を受けるのか。ただ、許しを得たかっただけなのに。
赤い土の上で一人の女が横たわっていた。彼女は虚空を見つめ、わずかに笑みを浮かべている。何を見ているのか。何がおかしいのか。誰にも分からない。ただ、彼女はそのまま動く気はないようだ。
焼くような日の光を浴びながらも、彼女は微笑みを絶やさず、ただ空を見つめ横たわる。雨が降っても、雪が降ろうとも。やがて、一匹の獣が彼女に近付き問うのだった。
――生に価値を見出せないのなら、その肉を差し出すといい。
女は無言でそれを了承する。彼女の肉は獣に千切られ、臓物を引っ張り出され、血しぶきが舞って、その頬を赤く染めた。それでも彼女は笑みを絶やさない。
眼球から虫が顔を出す。内側から水晶体を食い破って現れたようだ。それでも、彼女は笑みを絶やさない。
手首を切った。流れる血で浴槽が染まっていく。こうしていれば、誰かが助けに来てくれる気がした。でも、誰も助けにきてくれなかった。傷痕を隠す。それに気付いた誰かが優しくしてくれるかもしれない。でも、誰も優しくはしてくれなかった。
川の水が日の光を反射して輝いている。綺麗だった。手の平ですくって口の中に水を含む。血の味がした。ふと川上を見てみると女の生首が捨てられていた。
なぜ痛みから逃げるの?
なぜ一人が怖いの?
なぜ生きたいの?
空白。
血は流れ切って、皮膚は腐り、土に還る。
生きる意味とは。
腐った私の体は砂になり、やがて緑の芽が顔を出す。それは少しずつ成長して、長い時間をかけて森になった。だけど、森は伐採されて、アスファルトで埋め尽くされる。気付けばビル群が並び、人々が行き交っていた。
そうやって私は忘れられるのだ。
ビルが砕けた。あっという間だった。誰かが大きな火を放ったのだ。あるのは瓦礫の山だけ。私は瓦礫の上に横たわり、青い空を見上げる。そこには巨大な十字が浮遊していた。それは神の存在を確信させる。私は手を伸ばす。どうか助けてください。どうか私を認めてください。祈りながら、神の許しを請うため、ただ手を伸ばした。しかし、その腕は二つに裂ける。
――絶叫。
裂けた腕は激しく血をまき散らし、白い骨が露出する。痛い。痛い。なぜ、私だけがこれだけの罰を受けるのか。ただ、許しを得たかっただけなのに。
肉を食われる。獣に。虫に。赤い浴槽。川上に女の生首。血は流れ切って、皮膚は腐り、土に還る。
生きる意味とは。
腐った体は砂になり、やがてアスファルトで埋め尽くされビル群が並ぶと人々が行き交った。そうやって私は忘れられるのだ。
ビルが砕ける。誰かが大きな火を放ったのだ。空には巨大な十字。許しを請うため手を伸ばすが、腕が二つに裂ける。絶叫。肉が食われる。赤い浴槽。川上に女の生首。血は流れ切り、皮膚は腐って、土に還る。
生きる意味とは。
腐った体は砂になり、やがてアスファルトで埋め尽くされビル群が並ぶと人々が行き交った。そうやって私は忘れられるのだ。
ビルが砕け、巨大な十字に伸ばした手が裂ける。絶叫。肉が食われる。赤い浴槽。女の生首。血は流れ切って皮膚が腐り、土に還る。生きる意味とは。腐った体は砂になり、やがてアスファルトで埋め尽くされビル群が並ぶと人々が行き交った。そうやって――。
そうやって私は忘れられるのだ。
感想・リアクションくれくれー!!




