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敵の正体!

(レーナちゃん、何しているのかな……)



トウコは窓から見える夕日を眺めながらぼんやりと考える。レーナと別れて一週間は経過しただろうか。自分の作業も進まないし、彼女の安否を考えることも限界を迎えつつあった。



「そういえばさ」


「は、はい!」



ノノアの作業を手伝っている最中だった。いつも、彼は無言で淡々と作業を進めるため、まさか声をかけられると思っておらず、必要以上に驚いてしまったかもしれない。



「この前、テレビに出たよね」


「出ました! 先生が二十年前に出てた番組と同じやつです!!」


「……」



余計なことを言ってしまっただろうか。ノノアの目には「そんなことはどうでもいい」と書かれている。



「えっと、何か気になることありましたか?」


「なんか、僕の魔石を紹介してたよね。あれ、どこで手に入れたの?」


「もらいものです。魔王さんから。嬉しくて持ち歩いているんですよ。ほら」



それは、ノノアが一番人気だった時代に加工したと思われる魔石だった。トウコにしてみると、とんでもないお宝であり、手放せずにいたのだが……。



「……魔王、か」



ノノアの表情が少し変わった。いつもはぼーっとした顔だが、このときばかりは真剣。いや、感情的と言った方が近いのかもしれない。しかも、その感情の質は怒りに近いように思えた。てっきり、ノノアと魔王は仲がいいとばかり思っていたが、そういわけではないのだろうか。



「魔石は魔王に返した方がいい」



曖昧なことばかり言うノノアだが、このときは違った。



「しかも、できるだけ早く」


「理由を聞いても……いいですか?」



できれば、手放したくない魔石だ。納得できる理由を聞きたかったが、彼が説明するよりも先に、ロザリアが書斎に入ってきた。



「先生、何者かがこちらに向かっています。おそらく、目的は彼女です」


そう言って、ロザリアはトウコを一瞥する。


「うーん……。あと少しで完成するところだったのになぁ」



ノノアがゆっくり腰を上げるが、トウコはどうしていいのか分からず、動けずにいた。すると、ロザリアが足早にこちらに近付いてくるではないか。



「間に合いません。少し手荒な移動となりますが、辛抱してくださいね」


「えっ??」



ロザリアが突然、トウコの首根っこを掴むと、ぐぃっと引っ張る。そして、窓を開けたかと思うと、次にノノアを担いだ。



「も、もしかして飛び降りるつもりですか??」



ここは二階だ。ロザリアからしてみれば大した高さではないのかもしれないが、別に玄関から出ればいいじゃないか。そう主張するつもりだったが、ロザリアが閉ざしたばかりの書斎の扉が開かれる。そして、中に入ってきたのは深々とフードを被った人物。間違いない、トウコを襲った何者かだ。



「あら、思った以上に速い到着ですこと。先生、行きますわよ!!」


「ちょっと待ってください! ゼノアくんとタラミが!!」



しかし、ロザリアは問答無用で窓から飛び降りる。



「ひゃあぁぁぁーーー!!」



落下に悲鳴を上げたのではない。それよりも、森の中を駆けるロザリアのスピードに悲鳴を上げたのである。凄まじい加速と遠心力に、気を失ってしまいそうだ。



「ロザリアさん、戦わないの?」



しかし、そんな状況でもノノアは普段と変わらない調子で質問する。



「お二人を守りながら、あれと戦うのは不可能です。何者かは分かりませんが、あんなものを敵に回すとは……トウコさん、何をしたのです?」


「そ、そ、それが……分からなくて!! ほんと、迷惑をおかけして……すみません!!」



何とか声を出すが、まともに喋れていただろうか。とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、ノノアが「いや」と否定した。



「いや、僕のせいだ。もう少し早くあの番組を見ていれば……この事態を回避できたかもしれないのに」

「どういうことですか??」



トウコは詳しい話を聞きたかったが、ロザリアがさらに加速したため、声が出なくなってしまった。


「まずい、追いつかれますね」


どうやら、ロザリアのスピードをもってしても、追跡者を撒くことは難しいらしい。気が付くと風景は街中に変わっていて、しかもビルの屋上から別の屋上へ飛び移るようにして移動しているようだった。



「一度隠れましょう!」



ロザリアは少しずつ低いビルへ移動し、地上へ降りると路地に隠れる。二人を下ろして、次はどうなるのか、と考えるトウコだが、ロザリアが溜め息交じりに呟いた。



「……それにしても、とんでもない大物を敵に回してしまったようですね」


「追いかけて来る人の正体、分かったんですか??」


「はい。さっき顔が見えました。あれはトンプソンです」


「トンプソン??」



聞いても心当たりがない。ロザリアが説明を続けてくれる。



「コーリー・トンプソンはこちらの世界では有名な暗殺者です。しかも、元勇者正常化委員会の監察官の一人。あの女勇者が逃げ出すのも無理ありませんわ」


「勇者正常化委員会って……なんでしたっけ? たまにニュースで見るけど」



しかし、トウコは詳しく知らなかった。勇者正常化委員会は勇者の不正を取り締まる組織である。ただ、取り締まるにしても、強い勇者が抵抗した場合どうするべきなのか。もちろん、勇者より強い存在で抑え込むしかない。その役割を果たすものが監察官だ。



「トンプソンは不正の罪を着せられて消えた後、大物マフィアお抱えの暗殺者になったと聞きましたが……噂は本当だったのですね」


「……あの、どうして私なんかがマフィアに狙われるのでしょうか??」



敵の正体を知ったトウコだが、ますます混乱するばかりだ。しかし、その理由をノノアは知っているらしい。



「それは……まぁ、僕のせいかもしれない」

感想・リアクションくれくれー!!

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