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マジでお前のセンス……

「失礼しまーす! ……うわぁ!?」


ノノアの書斎。そこは昨日も入ったメヂアのコレクションが並んでいた部屋である。あのときは、あれだけ片付いていたのに……。


「あ、踏まないように気を付けてね」



ノノアが注意を促すほど、足の踏み場がない。床のあらゆる場所に本やら魔石が転がっているが、一番目立つのは薄い紙切れのようなものだ。これは何だろうか、と拾い上げてみる。



「写真、ですか??」


何気ない風景の写真である。ノノアはこちらを見ることもなく説明した。


「そうそう。この前、素材として撮ってきたんだよね。気になる写真があったら、こっちに投げてよ」



広い床に散らばる写真。それは百や二百なんて数ではない。しかも、似たようなものばかりに見える。同じ風景を少し角度を変えて撮っただけ。そんな印象だ。



「えっと……先生はどんな作業をされているのですか?」


思わず聞くと、ノノアは手にして眺めていた写真を放りながら答える。


「そりゃあメヂア作りだよ。僕は錬金術師なんだから」



また別の写真を床から拾い上げると、何が気に入らないのか放ってしまう。それを何度も繰り返すばかり。トウコが面を食らっていると、ロザリアが「失礼します」と入ってきた。



「まぁまぁ。いつものことながら、片付けても片付けても意味がありませんね」



そう言いながらロザリアは部屋の奥へ進むが、決して写真を踏むことなく、バレリーナが踊るような動作のごとく爪先で移動すると、ノノアの横に何かを置いた。



「先生、アレをお持ちしました」


「ありがとう。そこ置いておいて」



アレとは何か……と目を凝らすと、どうやらスナック菓子と箸のようだ。


「では、頑張ってくださいね」


それだけ言って、ロザリアは部屋を出て行こうとするので、トウコは思わず引き止める。



「あの……先生は何を?」


「先生は作業中、あのお菓子を食べないと集中できないそうなんです。だから、こうしてお持ちしただけで……」


「い、いえ……そうではなくて、先生は今どういった作業をしているのでしょうか?」



ロザリアは首を傾げる。



「聞いていないのですか?」


「はい……」



仕方がない、と言った調子で溜め息を吐くと、ロザリアは説明してくれた。



「先生はメヂアを作る前に、お写真をたくさん用意します。その中からインスピレーションを受けた写真をメヂアに反映するのだとか。つまり、アングルだったり構図だったり、色合いを見ているのでしょうね」


「写真から、ですか??」


「そうです。よく仰っているのは、自分の頭の中にあるものを映像化してもつまらない、ということです。なので、貴方は気に入った写真があれば、先生に見せればいいと思いますよ」


「そ、それだけ……ですか?」


「……とにかく、やってごらんなさい」



ロザリアは今度こそ部屋を出て行ってしまった。よく分からないけど、気に入った写真を選ぶだけなら簡単ではないか。ロザリアが言うように、取り敢えずやってみよう。トウコは山のようにある写真を一枚ずつ確認することにした。



(ちょっと待って……。全部いい写真だと思うんだけど??)


さすがは天才が撮影したものだけあって、ただの街並みの写真も美しい。青空、ビル、人の賑わい、猫など、どれも見入ってしまう魅力がある。


(それでも……厳選しないとダメだよね)



まずは三百枚ほどの写真を見ただろうか。そこから五枚を選び、意を決してノノアに声をかけた。



「先生、これとこれ。それからこの辺りが素晴らしいと感じました!」



五枚の写真を差し出すと、ノノアは「うん」と言って受け取った。そして、十秒ほど写真を見ると、すぐにトウコに返してくる。



「また良いのがあったら教えて」


……それだけだ。


(ダメだったってこと??)



せめて理由を教えてほしかったが、ノノアの寡黙っぷりは、それを許さない何かがある。トウコは引っ込んでから、今度は五百枚ほどの写真を見て、三枚厳選してみた。



「先生、お願いします!!」



今度は自信があった。なぜ、これを選んだのかと聞かれるだろう。色合いや構図などアングルについて技術的に語るつもりだったが……。



「……また良いのがあったら教えて」


そう言って写真を返されてしまった。


(な、何がダメなんだろう??)



トウコはさらに八百の写真から厳選したが、結果は同じ。次は千の写真から厳選するが、やはりダメだった。せめて、理由を教えてもらいたいのだが、同じ言葉でボツを伝えられてしまうと、暗に「お前のセンス、気を使っちゃうくらいダメだな」と言われているようで、地味に心が折れていく。



「すみません、先生!! 何がダメなのか……教えてください!」


意を決して聞いてみると、ノノアは無表情に言うのだった。


「だって……全部見たことあるような写真だし」



……分からない。じゃあ、貴方の思う特別な写真って何ですか!?と、トウコは心の中で叫ぶが、ノノアは淡々と写真を選び続けるだけ。彼は何枚の写真を見たのだろうか。トウコよりペースが速いため、確実に二千は超えていると思われるが……。



(ロザリアさんが言ってたのは、こういうことかぁ……)



折れそうな心を気持ちで補強し、トウコは写真たちと向き合うのだった。

感想・リアクションくれくれー!!

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