じゃあ、だれ!?
「邪魔するぜ!!」
レーナを先頭にカラオケの屋敷の個室に突撃する三人。気持ちよく歌っていたマユは目を丸くして驚いたようだった。
「な、なんですか!?」
テーブルに置かれたスマホを奪い取ると、レーナはそれをゼノアに渡す。SNSの配信を切るためだ。ゼノアが頷くと、レーナはマユに詰め寄る。
「きゅ、急に入ってきて……どういうつもりです!? 騎士団を呼びますよ!? スマホ、返して!」
騎士団を呼ぶくらいで怯むわけがないレーナは、さっそくマユの胸倉をつかむと、至近距離で睨みつけた。
「おうおうおう、うちの工房に手を出しておいて、よく言えたもんだなぁ」
「こ、工房?? なんのこと……はっ、トウコ・ウィスティリア!?」
後ろに控えるトウコを見て、明らかに動揺を見せるマユ。それを見たレーナは悪魔のような笑みを見せた。
「裏アカで脅迫したこと、調べは付いているんだよ」
「……な、なんのことでしょう?」
目を逸らすマユだが、その先にゼノアが現れた。
「こっちの写真と、こっちの写真。どちらも貴方が映ってますよね。この意味、分からないとは言わせませんよ?」
例の二枚の写真を見せると、マユは口をパクパクと開閉した。レーナは大袈裟にマユの体を揺すってから自白を進める。
「正直に認めちまいな。認めねぇなら、この証拠をSNSで拡散する。そしたら、どうなると思う?」
マユの人気は地に落ち、メヂアの商業化も白紙になってしまうだろう。逃げ場を失ったマユは口を閉ざすが、なぜかレーナは楽しそうだった。
「おい、黙るな。私はなぁ、痕が残らない拷問が十年前から得意なんだ。あー、魔族どもがひぃひぃ泣きわめくのを聞きながら食うドラゴンの肉は美味かったなぁー!」
「ひいぃぃぃ……!!」
青ざめたマユが洗いざらい話すまで一分もなかった。
「ふ、不安だったんです……。私と違って、実力だけで少しずつ認められていくトウコさんの存在が。彼女が有名になったら、私なんて……!!」
「だからと言って脅迫するのはおかしいだろ」
「脅迫と言うか……ちょっとした嫌がらせのつもりで。彼女が少しでも怖がってくれたら、胸がすくな、って……えへっ」
「えへ、じゃねーんだよ、殺すぞ!!」
軽々とマユを持ち上げ、今にも振り回そうとするレーナをトウコとゼノアが止める。
「お前はストレス解消のつもりで気軽にやっただろうけどな、マジで殺されるかもしれないって思う方の気持ちを考えてみろよ。それとも、私が分からせてやろうか? 今この場でよぉぉぉ!!」
「ぎゃあああーーー!!」
レーナは二人の制止を振り払い、マユを掴んだまま、竜巻のような回転を始める。普通の人間なら一生味わうことのない遠心力に、マユは十分に死の恐怖を堪能したらしい。
「お、おえええぇぇぇ……!!」
蹲って嘔吐を続けるマユの尻を引っぱたくレーナ。
「ほら、トウコに謝れ」
「す、すみませんでした……」
口に嘔吐物を付着させ、死んだ目で謝罪するマユだが、トウコの方は困惑しているらしく、ずっと曖昧な表情だった。
「その……マユさん。私の作品を見て、不安になる必要はないと思います。きっかけはどうであれ、マユさんの作品はたくさんの人を魅了して、業界の人にまで認められているんですから。もちろん、私もマユさんの作品を今も追いかけていますよ!」
トウコの言葉に、マユの死んだ目から涙が溢れる。
「あ、あ、あ……ありがとうございます」
再び蹲って泣き出すマユを見て、複雑な表情の上に笑みを浮かべるトウコだったが、レーナの方は釈然としなかった。
「甘すぎるぞ、トウコ。こんなカスのメヂアを褒めてやる必要ないだろ」
「一時の気の迷いだろうし、作品の素晴らしさは間違いないんだからさ」
「それにしてもよぉ、こっちは命を狙われているんだ。あんなプロの暗殺者みたいなものまで差し向けるなんて、どうかしてるぞこの女は」
泣いていたはずのマユが顔を上げる。
「暗殺者?」
「ん?」
「あの、私……暗殺者なんて知りませんよ??」
「……なんだって??」
話を聞いたところ、マユはSNSで文句をたれて脅迫DMを送っただけで、トウコを襲ったり、暗殺者を雇ったり……工房を荒らしたこともなかったそうだ。
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