投稿の際は個人情報に注意
「で、マユ・ローズマリーはどんなやつなんだ?」
なぜ彼女が怪しいのか。説明を求めるレーナと、どこか不満げなトウコ。それに対し、ゼノアは淡々とした調子で説明を始めた。
「まず、マユ・ローズマリーの投稿を徹底的に調べました」
そう言って、パソコンの画面を魔石を通して壁に投影する。映し出されたのは、NHアーカイブのアカウントで、マユのものらしかった。
「マユさんが人気になったきっかけは、メヂアの商業化の決定なのですが、それに疑惑があることをご存じですか?」
「へぇ、どんな?」
「彼女の作品に対するコメント、登録したばかりだったのに百件を超えているんですよね」
「ひゃ、百件??」
トウコが驚く。どうやら、同じクリエイタとしてはあり得ない数字に感じたようだ。
「ただ、そのコメントを残したアカウントを見てみると、マユさんの作品にしかコメントを残していないんです」
「まさか……水増し??」
「はい。NHアーカイブのシステム上、コメントやレビューが投稿されればされるほど、評価が上がってランキングの上位に表示される。そして、ランキングの上位に入るってことは露出も増えて、たくさんの人の目に止まるようになるんですよ」
自分でアカウントを量産して、本アカウントの評価が上がるようコントロールする。それはNHアーカイブで禁止されている行為ではあるが、抜け道がないわけではないのだ。
「でも、証拠はないんだよね?」
「じゃあ、次はこちらを見てください」
あくまで疑いたくない姿勢を崩さないトウコだが、次にゼノアはマユのSNSアカウントを見せる。
「これが彼女のアカウントですが、投稿内容を見てください。彼女の投稿には規則性があります。自撮りのアップ、カラオケ配信、たまに意味深なポエムと自作の宣伝投稿。このローテーションです」
「……カラオケ配信?」
レーナが首を傾げる。自撮りアップは理解できても、カラオケ配信は引っかかったようだ。
「それ、何のためにやっているんだ?」
「分かりません。でも、けっこう人気でコメントしている人も多いんですよ」
ゼノアがコメント欄を表示させ、レーナはそれに目を通す。
「どれどれ。えーっと……マユっち、歌うますぎ。この曲好き。選曲にセンスありすぎ」
上からコメントを読み上げたレーナは苦々しい表情を浮かべる。
「なんだよ、この内容のないコメント」
「コメントに対する、マユさんの返信も見てみてください」
「ありがとう。私も好き。センス自信ありです!」
「しかも、この返信に返信する人もいるんですよ」
ただ、その返信は顔文字だけだったり、絵文字だけだったり、さらに内容が薄いのだが、マユはそれに対して返信しているのだから、レーナは驚かずにはいられなかった。
「こ、こいつら……どうして、短文だけでこれだけ会話が続いているんだ?? 返信しなきゃいいだろーが」
「さぁ。意味深なポエムに対してもこんな感じで、見ているとなんか不安になりますよね」
「こいつ、本当にトウコと同じクリエイタなのか??」
「悪口はやめよーよ!」
トウコの我慢が限界を迎えたらしい。
「ねぇ、ゼノアくん。さっきから、ただの悪口ばかりでなんの手掛かりにもなってないよね?? こんなことなら、聞きたくないんだけど」
「違うんです。僕が言いたいことは二つです」
そう言って、ゼノアは指を二本立てた。
「一つ、マユさんはクリエイタとしての誇りがないということ」
指を一本折る。
「もう一つは……彼女は自撮りとカラオケが大好きってことです」
残ったもう一本の指を見せつけるゼノアだが、二人は釈然としていない。
「これを見てください!」
ゼノアがその指でパソコンのキーを押すと、画面が切り替わった。そこに映っているのは、二枚の写真だった。
「一つはマユさんの自撮り画像。時刻は一週間前の夕方五時」
画面の左側で、マユは顔の横にピースを置いて微笑んでいる。加工が凄いな、というレーナの呟きは二人ともスルーだ。
「もう一つは脅迫アカウントが『今日はカラオケ』とポストした画像。時刻は一週間前の夕方五時です」
「一致しているかもしれないけど、それだけでしょ?」
「ここ、よく見てください!」
画面の右側に表示された写真では、マイクとモニターが映っていたが、その隅に置かれたグラスをゼノアが拡大すると……。
「ま、マユさん……!?」
グラスに映るマユの姿は、一枚目に映った姿とほとんど変わらなかった。いや、厳密には無加工のため、やや印象の違う女の顔だったわけだが、マユであることには違いない。三人が確信を得たとき、マユのSNSアカウントに画像付きの投稿があった。
『十分後にカラオケ配信はじめまーす』
画像にはマユの自撮りが。そして、ガラス張りのアパレルショップの前で撮影したようだが……。
「カラオケの屋敷、ヤシブ店だ!!」
レーナがアパレルショップのガラスを指さすと、そこにはカラオケ店の店名がしっかりと映りこんでいた。
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