マウントの取り合いは地獄
対談が終わると、今度は自慢の魔石コレクションを紹介するコーナーに切り替わった。
「私の自慢の魔石はこちらですわ!」
マユが取り出した黄色い魔石は、トウコも見覚えがあるものだった。
「あ、もしかして……ムーン・ナナツメ先生の魔石ですか!?」
「あら、やっぱり分かります??」
マユは目を輝かせるトウコを見て、自尊心を刺激されたのか、満足げな笑みを浮かべた。
「数年前、お会いする機会がありまして。短い時間でしたが、先生とは意気投合しましてねぇ。こんなものまでいただいてしまいましたのよ。おほほほー!」
ムーン・ナナツメと言えば、トウコやマユが登録している、NHアーカイブを代表するクリエイタである。NHアーカイブが誕生してから、真っ先に商業化し、今では知らぬ人はいないと言えるほどのクリエイタで、トウコにとっても憧れの存在と言える一人だ。
「凄いですねー! 羨ましいなぁーーー!!」
よだれが出そうなほど食い入るトウコだが、マユは心地よさそうに魔石を見せびらかし、先生とは最近も連絡を取り合う仲なので、と業界人アピールまでしてみせた。
「次、ウィスティリアさんの魔石を紹介お願いしまーす」
「は、はい!」
テレビスタッフに促され、トウコは魔石を取り出す。
「私の自慢の魔石は、これです!」
それは、先日魔王から譲り受けたノノアモデルの魔石だった。その価値にきっとマユも驚くだろうと確信していたが、彼女はピンと来ていないのか、口を半開きにして眉を寄せている。
「……なんですか、この古い魔石は」
「えっ」
トウコは焦る。錬金術師ノノア・イカリヤが作った魔石。クリエイタであれば一目見れば、その価値に気付くはず。それを説明するのは逆に失礼ではないか、と。しかし、マユは本当に分かっていないようだ。
「えっと、ノノア先生が作った魔石です」
「ノノア??」
本当に知らないの?? トウコは混乱しながらも、もう少し説明を加えてみた。
「商業化作品で有名なものは『新世界創造シリーズ』とか『奈落の底』ですね……」
「あー、はいはい。新世界創造は聞いたことあります」
マユの納得する様子にほっとするが、彼女のさらなる発言にトウコは驚かされる。
「でも、古い作品ですよね」
「そ、そうですね。確かに二十年くらい前が一番話題になってました」
とは言え、ノノアの作品はクリエイタであれば見て当然。それがトウコの感覚だが、マユは通用しないらしい。
「今の作品の方が描写や表現力が優れているのに。ウィスティリアさんは変わった方なのね」
自分が所持している魔石の方が勝っている。マユはそう確信して笑った。だが、無事に撮影が終わるとテレビスタッフがトウコの周りに集まって、こんなこと言うのだった。
「ウィスティリアさん、さっきの魔石もう一度見せてもらえませんか??」
「僕もノノア先生の大ファンなんですよ!!」
「なぜ、そんなに凄い魔石を持っているんです!?」
大人たちに包囲されて混乱しつつも、トウコは丁寧に説明していたが、それを見ていたマユは面白くなさそうだった。
「そんなに凄い魔石なのかしら。でも、その先生と面識があるわけではないのでしょ??」
あくまで自分の方が上にいる。マユがマウントを取ろうとしているのは明らかだったが、トウコの方は純粋に答えてしまう。
「それが少しだけお会いする機会があって! 世に出していないシアタ現象まで見せてくれたんですよ!」
トウコにしてみれば、創作仲間に喜びを共感してほしいだけだった。いや、トウコだってそこまで鈍感ではない。ある程度はマユの性質を捉えつつも、つい興奮して喜びを表に出してしまったのである。
ただ、マユにそれを受け止めるだけの度量はなかった。トウコを数秒睨みつけた後、無言でスタジオを去ってしまったのである。その様子を見ていたレーナは意地の悪い笑みを浮かべた。
「ふん。長い鼻がへし折られていい気味だぜ」
「……火に油を注いでしまったのでは?」
だが、マユの感情に注視していたゼノアは、嫌な予感を抱かずにはいられなかったらしい。不安を覚えつつも収録が終わり、やっと一仕事を終えたゼノアはスタッフに放送日を確認した。
「それでは、放送は一週間後になりますので」
「へぇ、早いですね」
驚くゼノアにテレビスタッフは平然と言い放つ。
「低予算かつ穴埋めの番組なので」
「そ、そうですか……」
そんな番組をどれだけの人が見てくれるのだろうか。ゼノアは心配でならなかった。
「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、
ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。
好評だったら続きます!




