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夢のメヂア商業化

そして、テレビの取材の日がやってきた。トウコとゼノアは慣れない雰囲気に硬くなるが、レーナだけは頻繁に行くファミレスにでも来たような余裕がある。後で聞いたところによると、十年前に魔王を倒したとき、よくテレビの取材を受けていたそうだ。



「じゃあ、こちら本日の流れになりますので、本番までに目を通しておいてください」



控室でテレビスタッフからスケジュール表を渡される。まずはゼノアがチェックすることになったのだが……。



「ふむふむ。……えっ、これって!?」



想定外のことがあり、テレビスタッフに確認しようとするが、既に控室を後にしていたため、ゼノアは顔を青くする。



「どうしたの?」


「あ、いや……」


トウコがスケジュール表を覗き込むと、そこには「対談」の文字が。どうやら、トウコと別のクリエイタが対談するそうだが、相手は誰なのだろうか。すると、同じくスケジュール表を覗いていたレーナが、対談相手の名を口にするのだった。



「マユ・ローズマリーだとぉ??」



トウコに脅迫文を送ったかもしれない、容疑者の一人ではないか。



「おい、ゼノア! どういうことだ!?」


「対談なんて僕も聞いてませんでしたよ。と、とにかく確認してきます!!」



ゼノアは控室を出ようとするが、トウコが引き止めた。



「大丈夫。こんなことでテレビの人に迷惑かけちゃよくないよ」


「でも……」



自分を殺そうとしたかもしれない相手を前にする。もちろん、カメラが回っている前で凶行に出るとは考えにくいが、ただ目の前にいるだけでも、メンタルに影響があるのでは。それがゼノアの気持ちだがトウコは無言の笑顔で、それを否定するのだった。



「分かりました。でも、なぜ対談になったのか、それだけは確認させてください」


「スタッフさんに迷惑をかけない、って約束してくれるならね」



ゼノアは小さく頷いて控室を出て行き、トウコとレーナの間にしばらく無言の時間が流れた。顔も合わさず、傍から見れば空気が悪いように見えるだろう。が、呟くようにそれを破ったのはトウコの方だ。



「何も言わないの?」


「……別に言うことなんて何もねーよ」


「ふーん。危ないって止めるかと思った」


「お前のメヂアを広めるチャンスだ。私だって、ここで退くつもりはないね」



そんなレーナの想いを知って、トウコは背を向けたまま、微笑みをこぼすのだった。



「それでは本番始まりまーす!」



撮影が始まったのは、それから一時間後のことだ。トウコとマユが薄暗い空間の中で向き合うようにして座り、対談が始まった。


やや派手なドレスに身をまとったマユは、クリエイタというよりはベテランの歌手のようである。トウコはテレビということもあって、少し華やかなワンピースを選んだのだが、マユを前にするとかなり質素に見えた。



「はじめまして、トウコ・ウィスティリアです」



深々と頭を下げたトウコだが、マユは首を傾げた。



「はじめましてではありませんわ、ウィスティリアさん。私たち、SNSで何度もお話したじゃありませんか」


「え、あ……すみません。まさか、覚えていただけてるとは思わなくて」


「もちろん覚えていますとも。ウィスティリアさんは作品も印象的でしたから。それで、最近はどのようなメヂアを作られているの?」


「は、はい。最近は浄化の依頼もいただけるようになって、クライアントに合ったメヂアを……」



対談を見守っているレーナとゼノは、てっきりマユが上から目線で来る、と思っていたので、和やかな進行にやや拍子抜けだった。トウコも話を聞いてもらえることが嬉しいのか、少しずつ流暢になって最近の悩みや苦労話を続ける。



「なので、ぜんぜんダメなんですよぉ。私もマユさんみたいに、ランキング上位に入れるくらい頑張りたいです」



トウコがマユを持ち上げた、そのときである。彼女が満面の笑みを浮かべた。それは会話の主導権を握る音が聞こえたかのよう瞬間だった。



「私も苦労が耐えなくて。ランキング上位にとどまるようになってから、商業化の話もいただけるようになってねぇ」


「商業化、ですか!?」



トウコは目を驚きのあまりに見開く。メヂアの商業化。それは、シンプルにシアタ現象を商品として買ってもらい、消費者に純粋な娯楽として楽しんでもらう商売だ。工房を運営して食べていくよりも、一段上のクリエイタだけに許された活動と言えるだろう。



「はい。でも、私としてはこれまでの活動で、納得できるようなクオリティのものは作れていないと思っています。何て言うか……勢いで作ったものが、不思議と評価されてここまで来てしまったものですから。私自身何が良いのか分からないのに、面白がってくれる人がこんなにいるなんて、本当に不思議な世界ですよねえ」



おほほ、とマユは笑うが、ゼノアは苛立ちに頬を引きつらせていた。これでは、商業化に行きついていないトウコが、圧倒的な格下ように映ってしまうではないか。


なぜ対談になったのか、テレビスタッフに確認したところ、上からの強いプッシュがあって……とのことだったが、悪意と言うべきか、トウコが無駄に消費されたような気がしてならなかった。それでも、マユは続ける。



「まぁ、商業化となったら私も本腰を入れて、どこまで行けるか試してみようと思っています。今まで怠けて適当にやってきた私ですけど、本気でやってみようって初めて思わせてくれました。だから、メヂアの世界って本当に素敵なものだと思っていますわ」


「初めて、ですか……」



そこから、トウコの発言は極端に減ってしまうのだった。

感想・リアクションくれくれー!!

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― 新着の感想 ―
これは、なんだかなぁ。゜(゜´ω`゜)゜。 一生懸命書いたものが一般受けするとは限らないし、その逆も普通にある。それはよくわかるのですが、言い方が何とも嫌味たらしいというか(^_^;) いつも身を削っ…
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