一人目の容疑者
「こういったSNSで誹謗中傷するやつは、だいたい裏アカウントを使ってやるものです。つまり、逆を言うと脅迫アカウントの表アカウントが存在していると思うんです」
「前置きは良い。早く犯人を見せろ」
急かされるゼノアだが、あくまで冷静に説明する。
「脅迫アカウントの数少ない投稿を調べたのですが、そのほとんどはメヂアに関するもので、ネガティブな意見ばかりでした。たぶん、メヂアのファンかトウコさんと同じクリエイタか……」
なるほど、とレーナは頷く。メヂアのファンだとしたら、何かしらの歪んだ想いがトウコに向けられたのかもしれない。同じクリエイタだとしたら、最近注目を集めつつあるトウコを妬んだ故の犯行だと考えられるだろう。
「だから、犯人は誰なんだ?」
「まず第一の容疑者はこの人です」
ゼノアが見せてきたSNSアカウントは、メヂアのことばかり投稿するオタクのようだった。
「シノノメ?」
どこかで聞いたことがあるような、とレーナは首を傾げると、ゼノアが補足した。
「この人、ウィスティリア魔石工房のHNアーカイブに毎回コメントくれる人なんですよ」
「あー、よくトウコが言っているやつか!」
クリエイタは自作のシアタ現象をHNアーカイブに登録し、ユーザーから反応をもらう。シノノメを名乗る人物は、ウィスティリア魔石工房のすべての作品に対し、何かしらのコメントを投稿しているのだ。
「そうそう。しかも、シノノメさんはトウコさんが個人アカウントでやっているときから感想を投稿してくれています」
「じゃあ、いいやつじゃねぇか。要はトウコのファンってことだろ?」
「はい、熱心なファンです。ただ……」
「ただ?」
「健全な気持ちで応援してくれる人ばかりなら、クリエイタの皆さんも創作に集中できるんでしょうけどね」
次にゼノアが見せたのは、HNアーカイブにあるウィスティリア魔石工房のアカウント。その感想欄だった。そこにはシノノメの投稿が多く、かなり目立っていた。
『最近のトウコはマジで魂が感じられない。がっかり』
『昔のトウコがよかった。あのときのトウコを返せ』
『マジでやる気あんの? このままならやめた方がよくない?』
『今回も駄作。もうやめろ』
『やめさせてやろうか?』
最近の投稿であればあるほど、何やら負の感情が感じられるものばかりだ。
「創作活動の雑音になると思って、トウコさんには黙っていたのですが……少しずつ酷くなっているんですよね」
「こいつ、何があったんだ? トウコのファンなんだろ??」
「はい。たぶんですが……彼は昔のトウコさんの作風が好きだったのだと思います。前の作風が見たくてこうやって文句を投稿しているのでしょうけど、いくら言ってもトウコさんに変わる様子がないので、だんだん恨みが膨らんでいったのかもしれないですね」
「なんだよ、その自分勝手な理由!」
「あくまで僕の推測ですからね。話半分に聞いてください。でも、過去にそういう事件もあったと聞きます。ファンがアンチに様変わり。珍しくないと思いますよ」
「……で、こいつが怪しい理由は他にもあるのか?」
ゼノアはスムーズにパソコンを操作し、違う画面を表示する。
「見てください。例の脅迫アカウントの投稿、シノノメがHNアーカイブに感想を投稿した直後なんですよ」
確かに、どちらの投稿も数分しか変わらない。少なくとも脅迫アカウントとシノノメは同じ時間にネットを利用していたと言えるだろう。
「他にも、シノノメが苛立っている感じも、脅迫アカウントの雰囲気と似ているんですよね」
「そう言われてみると……」
そう感じなくもない。短文で強い言葉で否定する。句読点や改行のタイミングも近しいものがあった。
「よし、こいつにメッセージを送れ。今すぐ呼び出して吐かせてやる」
「いやいや、この人じゃなかったらどうするんですか??」
「じゃあ、どうするんだよ」
「取り敢えず、もう一人の容疑者を見てみてください」
「あー、まどろっこしい!!」
イライラしながらも、近くにあった丸椅子を引き寄せて、大人しく隣に座るレーナ。そのいじらしさに思わず笑みを零しながら、ゼノアは次の容疑者を画面に表示させた。
「この人はマユ・ローズマリー。クリエイタです」
次にゼノアが表示したSNSアカウントは、レーナもその名を聞いたことがあるクリエイタだった。
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