脅迫
「どこのどいつだ!」
レーナがノートパソコンを奪い取り、強引に操作をするものだから、ゼノアは壊れるのではないかと冷や冷やしてしまう。
「落ち着いてください! 説明しますから!」
ゼノアがこのメッセージに気付いたのは、つい数分前のこと。毎朝のルーチンで、SNSの反応を調べたとき、目に付いたのだ。受信は昨日の夕方である。
「この人が……本当にきた、ってこと??」
さすがのトウコも顔が引きつっている。誰かのイタズラが偶然重なっただけかもしれないが、関係性を疑ってしまうのは当然のことだ。
「それが、このアカウントは投稿もほとんどなくて、アカウントもつい最近作ったばかりみたいなんです。もしかしたら、このメッセージを送るためだけに作ったのかも……」
ゼノアの説明通り、そのアカウントはほとんど投稿はなく、アイコンも設定していない。嫌な不気味さだけがあった。
「何のためにトウコを?」
「分かりませんよ。……相談しましょう、騎士団に!」
「騎士団に?? 何か分かるのか?」
「昨今はネットストーカーや有名人に対する過度な誹謗中傷で捕まる人もいますから。魔力情報連絡網の解析を専門とする魔力アナライザーに調べてもらえば、こういう投稿も誰がやったのか分かるそうですよ」
「なんだよ、それを早く言え。行くぞ今すぐ!」
トウコを担ぎ上げると、すぐに工房を飛び出すレーナ。慌てて戸締りをして、ゼノアも後を追うのだったが……。
「ダメだったねぇ」
「はい、ただのイタズラだろうって取り合ってもらえませんでした」
そう、騎士団に相談したものの、これくらいでは事件性があるとは思えない、と軽くあしらわれてしまったのである。
「なんだよ、あいつら。役に立たねぇなぁ!!」
ちなみに、レーナは騎士団の駐屯地まで同行しなかった。なぜなら、騎士たちが恐れてしまって話にならないかもしれない、とトウコが判断したからだ。悔し気に拳を握るレーナだったが、何を思いついたのか、少しさっぱりした表情で顔を上げる。
「そうだ……タイヨウに相談しよう」
「タイヨウさんに? どうして??」
首を傾げるゼノアに説明する。
「あいつは元騎士団長だから、今も顔が利くはずだ。トウコのためだって言えば、少しくらい力を貸してくれるだろう」
自分を納得させるように何度も頷くレーナだったが、すっとトウコが手を挙げる。
「結構です」
嫌に冷めた表情のトウコ。
「で、でも……トウコに何かあったらよくないし」
タイヨウの必要性を主張しようとするレーナだが、トウコの限りなく冷めた瞳に見据えられてしまう。
「結構です。タイヨウくんに手伝ってもらうくらいなら死ぬので」
「……」
そこまで拒絶する必要ないだろう、とゼノアは思うが、彼女の目は本気のようだ。レーナの方も何も言えず、しょんぼりと肩を落としてしまうため、それ以上は解決方法が出てこなかった。しかし、トウコは明るい顔で手を叩く。
「まぁ、大丈夫だよ。あのメッセージと昨日の事件が関係しているとは限らないし。ただのイタズラと不運が重なったって思うことにしよう!」
「でも、トウコさん……」
ゼノアとレーナは納得していないが、トウコは眉を寄せて自分の主張を突き通そうとする。
「こんなことに時間をかけてたら、メヂアを作る暇がなくなっちゃうよ。さぁ、帰って仕事しよう!」
自分の命が危険かもしれない。そんな恐怖があっても、無駄な時間を過ごすくらいならば、魔石をいじっていた方が、トウコという人間にしてみると気持ちが安定するようだ。だが、工房に戻る途中、ゼノアがレーナに耳打ちした。
「戻ったら、もう少し犯人の特定に力を入れてみます。だから、レーナさんは……」
「ああ。どんなやつだろうが、トウコには指一本触れさせやしない」
珍しく二人の気持ちが一つになるのだった。ゼノアは工房に戻ると、さっそく犯人の特定に動き出す。夕方になり、工房を閉める時間が迫ったころ、ゼノアは一つの結論に至るのだった。
「犯人……見つけたかもしれません!!」
「でかしたぞ、ゼノア」
レーナはすぐさまゼノアの後ろに移動して、パソコンの画面をのぞき込む。トウコはメヂアの制作に集中しているのか、こちらの声は聞こえていないらしい。
「ほら、どいつだ。すぐにぶち殺しに行ってやる」
「落ち着いてください。あくまで容疑者ですから。そして、候補は二人です」
そう言って、ゼノアは二つのSNSアカウントをレーナに見せるのだった。
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