表現したいものは
「いやー、どうなることかと思ったぁ」
ベッドに倒れ込むトウコ。その横に敷かれた布団の上でレーナも溜め息を吐いた。
「それにしても、ひったくりに合うとか、お前も運がないよな」
そんな彼女の足元には猫のタラミが寄り添う。レーナが家に来ると嬉しいのか、タラミは彼女から離れようとしないのだ。
「本当だよねー。せっかくテレビの取材も決まって、もしかしたら今よりたくさんの人にメヂアを見てもらえるかもしれないのに、ここで死んだらどうしようって思ったよ」
「今日は取り敢えず寝ろよ。私がいる限りどんな危険だろうと排除してやるからよ」
「うわー、本当に頼りなるよね、レーナちゃんは」
そう言って横になるものの、いざ眠ろうと思うと睡魔は一向に訪れない。不審者に襲われた恐怖よりも、自分の創作のあり方が正しいのか。そんな思考の穴に落ちてしまったのだ。
「ねぇ、レーナちゃん」
「ん?」
「最近、楽しい?」
「なんだよ、その質問。そりゃあ、ギルドの受付やってた頃に比べたら楽しいだろ。いや、魔王討伐のために旅してた頃よりも、誰かの心を救うって意味では楽しいかもな」
「お、人生で一番充実しているってことかな?」
トウコからしてみると純粋に嬉しいことだが、レーナは照れくさいのか口ごもっている。
「じゃあ、お前はどうなんだよ!? 毎日魔石をいじってシアタ現象の構想練って、こういう生活を目指していたんだろ??」
「そのつもりだったんだけどねー」
トウコはぼんやりと天井を眺める。
「さっき、久しぶりに死にそうになってさ、少し思ったんだよね」
「なにを?」
「……私、自分の作品をちゃんと作れているのかな、って」
「作ってるじゃねぇか。毎日よ」
「そうなんだけど……。サイコロジ・ダイブでその人が持つ心の傷を見て、それを癒すためのシアタ現象ってなるとさ、私が表現したいものってなんだったんだろう、って思っちゃうんだよね。贅沢なことかもしれないけどさ」
レーナは黙った。自分がこんな悩みを抱えていると知って、幻滅しただろうか。いや、前も似たようなことを口にしたかもしれない。
「まぁ、時間作ってやればいいんだけどね。仕事もこなして、自分の作りたいものを作る。それが理想なんだよね」
無言を避けて、トウコはそれらしいことを続ける。
「私さ、自分の最高傑作をつくるとしたら、お母さんとレーナちゃんの魔石を使おうと思っているんだよねぇ」
「……お前、私の魔石をあんなところに置くなよ」
トウコがつい最近ゲットしたレーナの魔石は、玄関の横に置かれている。しかも、彼女が尊敬する母の魔石の横に。レーナはそれを見るたびに居心地の悪さを感じるのだった。
「いいじゃん。あれを見ると気が引き締まるんだよねー。いつか自分が納得できるものを作るんだって」
「それはいいけど、別に私の魔石を使わなくても……」
「でもさぁ、私にとってレーナちゃんは……」
トウコは日頃の感謝を伝えるつもりだったが、急にやってきた睡魔によって、上手く言葉が出てこなかった。レーナがかすかに笑ったような気がしたが、それも夢だったのかもしれない。
「あれ、二人で出勤なんて珍しいですね」
朝、工房に顔を出すとゼノアが既に仕事を始めていた。
「もしかして、一緒にお泊りですか? あの、前から思っていたんですけど……いや、別に聞かなくていいか。まぁ、えっと、だから二人は」
何を言いたいのか、言葉を選ぶゼノアの脳天にレーナの手刀が落ちる。
「いたーっ!!」
「勘違いするな、馬鹿」
「血? これ、血出てません??」
あまりの衝撃に狼狽するゼノアに、レーナは昨夜のことを説明した。すると、ゼノアの顔が一気に青ざめていく。
「……ちょっと二人とも! これ見てください!!」
ノートパソコンを引っ張り出し、その画面を二人に見せる。そこに表示されているのは、ウィスティリア魔石工房のSNSアカウントだった。
「これがどうしたの??」
「見てほしいのは、こっちです」
ゼノアが操作すると、SNSアカウントに届くダイレクトメッセージが表示された。そこに書かれた内容は……。
『殺してやる。後ろに気を付けろ』
顔も知らない誰かからの脅迫文だった。
とにかく
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