◆ミカ②
「君がミカちゃん? 噂以上に可愛いね」
あ、大人だ。これが初めてタイヨウを見たときの私の感想だ。クラブのVIPルームで、微笑まれたとき、ちょっと感動した。それは初恋だったのだろうか。
「ナイトファイブのリーダー、タイヨウさんですよね!? 私、ずっとリスナーだったんです!」
「本当に?」
「はい! ファーストシングルの『キラキラの世界でメロメロにさせてやんよ』から聴いてますよ!!」
「かなり古参じゃん。嬉しいなぁ」
「今日のパーティにくるって聞いて、凄い興奮してましたよぉぉぉ」
ウソだ。確かに、タイヨウはかっこいいし、微笑みをみたときは感動した。けど、それはエリアル王国で一番の有名人に会えたから、というだけのこと。もちろん、リスナーでも何でもない。曲名だって、昨日調べたから知っていただけだ。
「よかったら……二人で抜けない?」
「は、はい……」
二人で一時間ほど話すと、タイヨウの方から誘ってきた。乗った理由はいくつかある。一つは有名人で仲良くなれば自慢になると思ったこと。もう一つは……タイヨウはこれまであった男は違うと思ったから。これまでの男は私に褒められると、顔を赤くしながら挙動不審にワケの分からないことを言ったけど、タイヨウは自然に微笑むだけ。大人に見えたのだ。
「こんなところでお酒飲むの……初めてです」
「僕が知っている限り、一番の夜景を……君に見せたかったから」
夜景の見えるバー。今までにない景色を見せてくれるタイヨウは、余計に大人に見えた。と言ってもこのときのタイヨウは二十二歳。今思うと少し金を持っているだけのガキだった。抱きたいと思った女を好きなタイミングで抱ける。そんな自分を堪能していたのだろう。
でも、後日友達に話すと、やはり羨ましがられた。
「えっ、ミカちゃん……タイヨウと付き合っているの??」
「内緒ね。内緒!」
「すっごーい!! やっぱりミカちゃん凄いわ!!」
「そんなことないよー」
私はこの国で一番の女になった気がした。たくさんの男に人気だし、一番の男に愛されているし、まさに最強。やっと見つけた幸せなのだ。そんな風に思っていたのだけれど……。
「ここのスーシー、王族御用達なんだよ。どうしても、ミカに食べさせたかったんだ」
「……ふーん。美味しいね」
タイヨウとのデートにだんだん慣れてしまった。いや、飽きてしまった。王族御用達のレストランは、もう何度も行ったし、高級ホテルも温泉も、何度も行けば感動も薄れてしまう。何が楽しいのか、何が嬉しいのか、よくわからなくなってしまった。
「じゃあ、また今度な」
タイヨウはタイヨウで、夜を過ごさず帰ることが増えた。お互い飽きているのだろうか。だったら、別れてしまった方が……。そんな風に思い始めたころ、急に男性からの誘いが増えた。
「ミリアさん。良かったら、今度一緒に食事でも」
「ミカちゃん。一緒に行きたいイベントがあるんだけど、週末はどう?」
「ミリア氏! この前、実況していたゲームの新作が出るから、今度一緒に……!!」
つまらない。つまらない。つまらない。タイヨウと一緒にいるときより……つまらない。魔道ネットワーク関係の社長。ダンサー。オタク。どれも大した差がない。やっぱり、タイヨウが一番だ。一番と言っても、この辺の有象無象より、少し顔がよくてセンスが良いってだけのことだけど……だからといって、何が好きなんだろう。
何気なく、ナイトファイブの定期配信を見る。その日もコメント欄は賑わっていた。
『やっぱり、タイヨウくんが王子様すぎてつらい……!!』
『タイヨウくんの笑顔が私の生きがいです!』
『私のすべて私のすべて私のすべて私のすべて私のすべて』
誰もがタイヨウを欲している。けど、何がいいんだろう。こんな風に狂ってみたいけど……たぶん無理なんだろうな。だって、私は特別だから。誰もが憧れるタイヨウに惚れられるくらい、特別なんだから。
でも、なんでだろう……。特別って退屈だなぁ。
何となくの日々を送りながら、何となくエリチューブを見ていたら、自分が配信を始めたころ、お手本にしていた女性インフルエンサーの動画が回ってきた。結婚して引退したはずのに、復活したらしい。そう思いながら、再生すると彼女は昔とは違う笑顔を見せていた。
「結婚して子供が生まれたら、本当に世界が変わりました。私はこの子に出会うために、ずっと生きていたんだなって。人生の答えを見つけた気がしています」
結婚。子供か。そういえばお母さんも私が生まれたとき、そんな風に感じたと言っていたような。
「ねぇ、タイヨウ。結婚とかどんな風に考えているの?」
「えっ?」
取り敢えず結婚して、子供が生まれたら何かが変わるかもしれない。そう思うと早く実行したかった。だけど、タイヨウの反応がおかしい。
「結婚……か。そうだな、まぁ、いつか考える時期がくるかもしれないな」
「いつかじゃなくて、早い方が良くない?」
「……ごめんな。今はエリアルドームのライブ成功のことしか考えられないんだ。それが終われば、一段落するから、そのときまた考えよう」
「ふーん……」
ドームのライブは凄く未来の話し、というわけではない。まぁ、焦ることじゃないか。そう思っていたら、私は気付いてしまった。タイヨウが浮気していることを。
『今日も魔族退治で超つまんなかったぁー。タイヨウと一緒だったときは楽しかったのに、最近はナイトファイブの仕事ばかりでつまんない。てか、今日もスバルに睨まれた。あの子、怖いからタイヨウから何か言ってやってよー』
タイヨウのスマホが受信した、女からのデコデコしたメッセージ。よく調べると、相手は……魔王を討伐したとか言う、ちょっと前にチヤホヤされていた女だった。
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