◆ミカ①
さて、今日も配信を始めよう。退屈な人生だけれど、私が特別であることを、輝いていることを実感できる時間は、やっぱりこれなのだから。マイクをオンにしてカメラを付けると、すぐにリスナーの数が増え、コメント欄は文字でいっぱいになった。
『ミカちゃんの初恋はいつ??』
また、バカみたいな質問がきた。これで何度目だったか。リスナーは私のこと、いくつだと思っているのだろう。本当に馬鹿馬鹿しい。でも、仕方がない。私が可愛いから、十六か十七くらいの純粋な女の子に見えるのだろう。こう見えても、お前らが思っている以上に、えげつないことやっているからな。まぁ、いいや。とにかくそんな質問があったら、私は決まってこう答える。
「小学生の五年生のときに転校してきた、リュウセイくんかなぁ。なんか転校生ってだけでかっこよく見えちゃって、足も速かったんだよね。お決まりだけどさ、小学生のときって足が速いだけでかっこよく見えちゃうよね。あれ、なんなんだろうね!」
明るく答えると、配信のコメント欄は悪くない反応が流れていく。
『あるある』
『小学生のミカちゃんも可愛いだろうな』
『そういうのいいから』
中には、初体験はいつかって聞いてくる馬鹿もいる。もちろん、軽くあしらってやるけど。
「そういうセクハラはダメですよ!」
いちおう聖女なので、真面目な感じで窘めると喜ばれるのだ。ただ、こんな阿保な質問があるたびに、私は考えてしまう。
――私の初恋っていつなんだろう。
リュウセイくんは実在する。転校生ってことも、足が速かったことも本当。リュウセイくんがかっこいいって噂する女子がたくさんいて、それと同じくらいの数の女子が、私にこんなことを言った。
「リュウセイくんとミカちゃん、絶対にお似合いだよね。付き合ってみたら??」
今になって思うと、小学生で「付き合う」ってなんだよ、と笑ってしまうのだが、彼女たちは本気だった。本気でゴシップを楽しんでいた。何と言うか、私のいいところであって悪いところなのだけれど、求められると応えたくなる性質がある。だから、女子数名とリュウセイくんを含む男子数名で一緒に帰ってみた。
「あの、僕と……付き合ってください」
そしたら、どういうことだろう。いとも簡単に、リュウセイくんの方から告白してきたのだった。
「はい、お願いします」
別にリュウセイくんが好きってわけじゃなかった。でも、皆に求められているみたいだし、何よりも自慢になる。だから、OKしてみたのだけれど……。
「あの、さ……。今日の体育、どうだった?」
「どう、って?」
「なんか……フトシくん、転んでたよね」
「ああ、うん。痛そうだったね」
「そうそう。あの転び方、凄い痛かったと思う」
……やばかった。とにかく、つまらなかった。他の女子も男子も、気を使って……いや、面白がって私たちを二人きりにしたのだけれど、本当につまらなくて苦痛でしかなかった。
「ねぇねぇねぇ、昨日どうだった!?」
「男子と二人で一緒に帰るってどんな感じなの?」
「いいなぁ、幸せそうで!」
でも、周りの女子が羨ましがるし、話題の中心にいられるから悪い気はしない。だから、少し続けてみたけど……中学になってからリュウセイくんは変わった。
「……はぁ。今日も世界から拒絶されている気がする。僕の本当の居場所ってどこなんだろう」
私と一緒にいるのに、重たい溜め息に意味不明な言葉。髪も伸ばして似合っていない。何があったのだろう、と彼と仲が良い男子に聞いてみると、思ってもいない答えが返ってきた。
「なんか、あいつ……変なメヂアに影響されて、人間不信になったらしいよ。最近は、この世界に俺の居場所はない、ってセリフが口癖みたいになっててさ」
「き、きも……!!」
後から聞いた話だと、ノノア・イカリヤとかいうカルト的な人気がある錬金術師のシアタ現象を見て、そっち系のスタンスがかっこいいって思ったらしいんだけど、馬鹿だよね。今だから、中二病って笑い飛ばせるけど、当時の私にとっては気持ち悪くなって仕方なかった。
「別れよ。キモイから」
だから、皆の前で振ってやったんだけど、彼は目の色を変えて私に迫ってきた。
「……はぁ? 俺のこと、何もわかってないくせに、簡単な言葉に当てはめるなよ!!」
「だから、そういうのキモイから。じゃあ、今日まで、ってことで。お疲れ!」
逃げる私。だが、その背にはギャラリーの笑い声が浴びせられていた。結果、リュウセイくんは登校拒否。卒業後も彼の姿を見ることはなかった。
で、次は野球部のエース、その次はちょっとヤンキーな先輩、生徒会長……そんな順番で付き合ってみたけれど。
「つまんないし、別れよう?」
結果は全部同じ。みんなつまらなくて、すぐに私の方から別れてしまった。高校時代も同じ。何となく恋愛しながら、卒業と同時に聖女の資格も取ったんだけど、仕事はかったるいから、動画配信を始めた。
「はい、今日も貴方に女神の祝福を! 聖女系のエリチューバ―、ミカ・ミリカです!」
ちょっと高い声で馬鹿話をするだけなのに、私はいつの間にかトップ・インフルエンサーになっていた。まぁ、でも当然のことだ。私が可愛すぎるから。エリチューバ―として、順調に階段を昇っていたところ、ある日、インフルエンサー同士の飲み会に参加することになった。
そして、私はそこで出会う。
ナイトファイブ、当時のリーダー……タイヨウに。
ついに100話!
無駄に長い話なのにいつもありがとうございます!
記念に感想・リアクションくれくれー!!




