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一般受けしないメヂア

 時間は三時間ほど遡る。


 トウコは自宅でメヂア制作に集中していた。メヂアの多くは、拳に収まる程度の小さな球体で、半透明の色が特徴的である。今トウコが作成しているのは、オレンジ色のメヂアだった。


「……ダメだ。時間がない!」


 完成度としては、納得いくほどのものではないが、今日は大手の魔石工房で面接が決まっている。これをポートフォリオにして、自分を売り込まなくてはならないのだった。


「お母さん、タラミ、行ってきます!!」


 トウコはスーツを着込み、寄ってきた猫のタラミの頭を撫でて、その隣に置かれた透明なメヂアの前で手を合わせてから家を飛び出す。


 時間がない。

 少しメヂアの調整に時間をかけ過ぎた。


 でも、これまでにない傑作のはず。きっと、今度こそ、クリエイタとして雇ってもらえるだろう。そんな期待を挑んで面接に挑むのだが……。


「うーん……」


 メヂアの出来具合を見た、面接官の男は低く唸った。


「ど、どうでしたか?」


 勇気を振り絞りながら、トウコは感想を聞くと、男はもう一度低く唸った。



「悪くない。いや、むしろ良いよ。センスがある。表現も美しいし、オリジナリティも申し分ない。僕だったら、このメヂアによるシアタ現象を見て、金を払いたくなると思う」


「だったら――!!」



 並ぶ誉め言葉に期待を膨らませるトウコだったが、男は首を横に振る。



「いや、ダメだね。ウチでは雇えない」


「……えっ?」


「素晴らしいけどねぇ……。一般受けしないよ。今の人には、こういうのは理解できないから」


「理解、できない……ですか」


「悪いね」



 肩を落として魔石工房を出るトウコ。面接官の男が言った「理解できない」という言葉が頭の中で繰り返された。


「まぁー、そうだよねぇー」


 そして、重たい気持ちを吐き出すように呟く。


 分かっていた。

 いや、分かっているつもりだった。


 だから、今の時代に求められるような表現にチューニングしたつもりだったのだが、それでも足りないらしい。


「でも、これ以上良いものなんて……作れるのかなぁ」


 溜め息を吐きながら、自分の最高傑作と思われたメヂアを取り出す。


 この小さな球体に、どれだけの時間とお金をかけただろうか。もし、別のことに費やしていたら、トウコはどれだけの娯楽と経験を得たことか。もしかしたら、寂しさだって感じることはなかったかもしれない。それをすべて捨てて、この小さな球体に費やしてきた。それなのに……。


「またダメだったんだよねぇ。お姉ちゃんに何て説明しよう」


 とぼとぼと家路につくトウコ。帰ったらタラミに慰めてもらおう。唯一の友達で、唯一の恋人に。


「せめて、もう少し簡単に魔石が手に入ったらなぁ」


 メヂアに必要な魔石は、エタ・コラプスエリアで手に入る。しかし、そこは魔族やセトバクと呼ばれるモンスターがさ迷う危険なエリアだ。


 だからこそ、強力なガードが必要となる。


 レーナのように、強力な力を持つガードが。もう一度溜め息を吐き、それでも自分はやるしかないのだ、と決意を決めて顔を上げると、


 道端に座り込む赤い髪の女性の姿が見えた。


「あれって……」


 トウコはなぜか胸がときめくような感覚を覚える。ここで会ったのも、何かの運命かもしれない。


 もう一度……

 専属のガードになってもらえるよう、お願いしてみよう!


「もしかして、レーナちゃん?」


 蹲ったレーナの顔を覗き込む。すると、血色の悪い表情で見つめられた後、今にも泣き出しそうなほどに、それが歪んでいった。


「お前……トウコじゃねぇか」


 これは何かあったな……。

 感情の理解が非常に大事となるメヂア制作にとって、誰かの体験談はネタとなる。これは根掘り葉掘り聞くしかないではないか。トウコは笑顔を見せた。


「何しているの? よかったら、一緒にご飯でもどうかな?」


 いつだかと同じように誘ってみるトウコだったが、今度のレーナは少し違った。



「頼む、トウコ。お前のメヂアで……私を助けてくれ!」



 どうやら、意外な方向から仕事が舞い込んできそうなトウコであった。

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面白いです。 この面白さと凄さをどう伝えようかな……と思ってたら、トウコさんが言ってくれた!『今の時代に求められるような表現にチューニング』これ、このお話で絶妙な力加減でされているのを感じます。 ギ…
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