とあるギルドの受付嬢は憂鬱だった
結婚したい勇者と創作好きな錬金術師が会社を立ち上げて、トップクリエイターを目指すお話です。しばらくは連続投稿しますので、よろしくお願いします。
「あぁぁー、結婚したいなぁ……」
レーナ・シシザカは仕事中であるにも関わらず、盛大に心の声を漏らしていた。ここは、魔王の討伐から十年の月日が流れた、エリアル王国のソーサ地区。王都からやや離れたエリア、その冒険者ギルドだ。
攻撃的な赤い髪が特徴的なレーナは、受付としてギルドで働いていたが、あまりに退屈な日常に魂が抜けつつあった。
が、残りの勤務時間(五時間)を、どうやって過ごすか考えていると、三十代手前と思われる男性が受付に現れる。
「あの、レーナさん。良かったら、今夜お食事でもどうですか?」
この男、何度か見かけたことがある。名前は知らない。たくしましい体に、顔も精悍な印象はあるが……。
「えー、今夜ですか?」
レーナの明るい声に、男は手応えを感じたのか、嫌に凛々しい表情を作ってアピールを続けた。
「ずっと、声をかけたかったのですが、やっと勇気が出たのです。どうかお願いします」
「こんな風に声かけられるの、初めてです……。どうしようかなぁ」
レーナは甘い笑顔と戸惑いの表情を見せながら、男が差し出す冒険者カードを受け取ると、素早く魔道情報処理機器を操作し、情報を確認した。
ジェフ・アルド。冒険者ランクC。今月の合計報酬額は20万イエール程度。去年の年収は……。
(……300万程度か)
レーナは口元に笑みを浮かべたまま、長いまつ毛で鋭い眼光を隠しつつ、ジェフの顔を窺う。
(この程度の年収で私を誘ってきたのか? しかも、全く警戒心がない。年齢も二十九となると、これ以上の伸びしろはないな……)
レーナは発行したクエスト表と一緒に、冒険者カードをジェフに返しながら、明るく答える。
「とりあえず、お仕事頑張ってくださいね。詳しい話は、戻ってきてからで!」
レーナの眩しい笑顔にジェフは顔を赤らめつつ、照れ臭さを隠すように頭をかきながら立ち去るが、それを遠巻きに見ていた常連の冒険者たちが話す声が聞こえてきた。
「ジェフのやつ……レーナちゃんのこと知らないのか?」
「あいつはこのギルドに来て、まだ三か月だから仕方ねぇさ」
「でも、気持ちは分かるよ。俺も最初は同じように声かけたし」
ヒソヒソと囁き合う男たちに、レーナは微笑みを浮かべながら、視線を送った。
「おい、こっち見ているぞ! 解散だ、解散!!」
視線に気付いた男たちは、引きつった笑顔を返しながら、そそくさと立ち去るのだが、それを見送りながらレーナは溜め息を吐く。
(あーあ……結婚してぇー。ほんと、どこに良い人がいるのかなぁ)
彼女……レーナ・シシザカはろくに仕事もしないくせに、向上心もなく、ただ結婚に対する理想だけが高いギルドの受付嬢だ。
しかし、そんな彼女にはある秘密があった。
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