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君は科学教師

掲載日:2024/12/20

 エスカレートしていくことでしか満足できないし、まず満足することを求めにいくからこその現在の様相なのだ。なのだろうと、できれば推定に留めておきたかったのだが今はそんな気持ちは捨ててしまい、強気な断定で進めさせてもらう。僕は僕自身に許可をとってから喋る。常に日常生活のうちからやってきたことだ。

 ジープに乗って何もない砂漠を突き抜けるのには虚しさという風を浴びる必要があるし、虚しさを走る燃料にあてる以上、恐怖や果ては心地よさにすら似た感覚は尻すぼみにやがて窮屈なソファの上で目を覚ます運命にあるということをここにはっきり明示しておく。別に走りながらそんな結末をみつめるべきとまではいわないが、最後にソファで目を覚ましたときには大人しくそれを現実として受け止める覚悟をするべきなのだ。これはLSDあるいは躁状態の際の話をしている。どちらにせよその時には誰であろうと、周囲や自らに起こる出来事に対し全身を預けてしまわないといけない。どこの学術書にも攻略本にも書いていないが、これは紛れもない事実なのだ。君は科学教師。学校にいるときはいつも白衣を着ておいた方が生徒に懐かれるかもしれない。それは数学教師にはない利点だ。計算づくであろうとなかろうと、君にはそれを行使する権利があるんだ。さあ、今朝もオーバーサイズの白衣を纏えよ。

 愛しさ切なさ、イルカキュイキュイタイム。

 キュイキュイ。キュイキュイ。キュイキュイ。キューキュー……。

 それは次第にカモメが海を渡る際のサヨナラの声へと変貌していった。だがほとんどの人は群れで手を振るイルカに夢中で、カモメの鳴き声など誰も気に留めることはなかった。夏の思い出が冬にこそ蘇って、クリスマスや年末年始への思いを加速させる。だからこそ今年も早いねぇ~、という言葉が人々から容易に引き出されるのである。このことに気が付いたのなら、そういった会話の中に潜んでいる夏のカモメの渡る声を、今度こそ聞き逃してはいけないのだ。

 尻を地面につけた野良犬の隣にいるのは一匹の青いヒヨコだった。二匹してシャッターの閉じた花屋の前に居座り、吠えも跳びはねもせずに大人しく前方のコロッケ屋を見つめていた。その二匹ともの目は全部で4つ、1つも欠けることなく明らかに意思を宿している。白目部分ができて、意思を伝えるための目に、二匹とも変化していたのだ。ここで僕は、その辺りを通る平和ボケした人間との比較を行ってもよかったのだが、それは決してしない。なぜならばそんなことはあの二匹に対して失礼だからだ。だから僕は特に関りを持つことなく、むしろその辺の平和ボケした人間に混ざってこの場を去ることにした。シャッターの花屋の前では野良犬と青いヒヨコがコロッケ屋をみつめている。雨は降らないが今日は曇りだった。カモメは見えないが僕には聞こえるし、ピッチャーを傾けることによって冷えた水がコップの中へ流れる。それを原因から結果への流れとするのなら、別に結果から原因へ流れたって構わないのだから、今の僕には野良犬と青いヒヨコ、それとカモメの声とイルカの振る手まで見えていて、向こうの屋上でタバコを吸う科学教師の姿が、白くて背の低い煙突みたいに見えていた。

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