第3話 ルベリー友達ができる
読んでいただきありがとうございます。
学院生活を楽しむルベリーに、王太子カリナンが来校するという恐ろしい知らせが舞い込む。
「72点」
「オレ、65点」
「私は96点」
エンジェすごーい、とルベリーとジークフリーは目を輝かせた。
「たまたまだね。けど、ルベリー。問い⑤が解けてるのに、問い⑱ができなかったのはなんで?」
心配そうにエンジェに聞かれ、ルベリーは答案を見返す。
⑤は炎の魔法の出し方と、消し方についての説明。
⑱は水の魔法の出し方と、消し方についての説明。
ほんとだ、⑤が解ければわかる問題だ。
「じ、時間が、足りなくてー、へ、変な説明になったのよ。だから消したの!」
「そのままにしたら、三角はもらえたかも」
エンジェは腑に落ちない顔をした。
(す、鋭いー、もっと気をつけなきゃ)
その後、学院生活は驚くほど充実したものになった。ありがとう、ルベリーライフである。
移動教室に行くのもエンジェや、ジークフリーがいるし、グループ分けもすぐに決まる。
毎日、布団の中で泣いた。
うれしくて仕方なかった。
授業内容を理解し、このぐらいなら目はつけられないぐらいの魔法を出した。平均平凡、このまま卒業して、お母さんにはダメだったと諦めてもらい、魔法工業に就職しよう、とルベリーは心に決めた。
しかし、そんなある日、ルベリーにとっては衝撃の発表があった。
「皆さん、驚いて下さい!」
ウエンディ先生がいつもの仏頂面ではなく、満面の笑みで教卓を叩いた。生徒は何事か、と一斉に前を向く。
「何と!次の火曜日に、王太子殿下が来校されます!」
なんでよーー!
ルベリーは頭を抱えた。
あいつー、なんで庶民の学院なんかに来んのよ!いままでそんな事しなかったでしょ!
「見るのは上級生のクラスですが、今年は何名か宮廷魔術師候補がいるので、その人を見に来るのです。皆さんも遠くから拝ませていただきましょう」
拝むって、そんな立派なもんじゃないわよ、と思ったが、そもそも容姿が変わっているし、もう関係のない天上人だ。ルベリーは考えないことにした。
魔法薬学の授業はとても面白く、ルベリーはこの道に進むのも、悪くないと考えた。
「細かく測るのめんどくせー」
ジークフリーが、ミリ単位で薬品を混ぜていくことに疲れた様子だ。
ルベライトはお菓子作りが好きだったせいか、配合は苦にならなかった。
「そう?とても楽しいわ」
ルベリーが言うと、エンジェが頷いた。
「色が変わるのが面白い」
「えっ?オレの色違うぞ!」
「ジーク!やり直しよ!その液体は凍らせて!」
「え?」
ポン!と音をたてて、ジークフリーの薬は吹っ飛んだ。
「ぎゃあ!」
ジークフリーは火傷を負った。
「もう!ヒール!」
ウエンディ先生が駆け付け、魔法で治療した。
「医務室で異常がないか、診てもらいなさい。ルベリー、付き添って」
「はい!」
すまん、ちょっと視界がー、というジークフリーに肩を貸して、ルベリーは医務室へ急いだ。
「大丈夫?」
「えーん。目がしみるー」
かわいそうにー、どこで失敗したのかしら?
考えながら歩くと、前から行列が近付いてきた。
それを見て、ルベリーは目を見開いた。
ラカン国王太子カリナンが、豪奢な金髪を揺らして歩いている。隣には、アメリが少し後ろを歩いていた。
(アメリ、痩せたわねー)
「ジーク、ちょっと端によるわよ。頭を下げて」
「うん?」
ルベリーは廊下の端に寄り、頭を下げた。一行が通り過ぎるまで下げ続ける。
だが、ルベリーの前で足音が止まった。
ルベリーは緊張のあまり、汗が吹き出しそうだった。
「怪我人か?」
カリナンの優しい声が聞こえた。
「あっ、はい。授業中に目をやっちゃってー」
ジークフリーが答えた。しばしばとまばたきを繰り返す。
「それは、引き止めてすまなかった。気にせず行きなさい」
「ありがとうございますー」
深く頭を下げて、ジークフリーが進む。
「あれ?」
ルベリーが動かない。合図をするとようやくルベリーは動き出した。ルベリーは顔をあげずに俯いたまま進みだす。
「どうしたの?ルベリー?」
ジークフリーの言葉に、誰かが息を呑んだ。一人だったのか、数人だったのかー。
「ちょっと待ってくれ」
ルベリーはカリナンに声をかけられた。
「ーーはい?何ですか?」
声も違う、顔も違うー。言葉づかいだって王太子に使う言葉じゃない。
わかるわけがないー、ルベリーは顔をカリナンに向けた。
カリナンは少し考えているようだった。ダイヤモンドの輝くような瞳が、揺れるように動く。
「いや、呼びとめてすまない」
カリナンはルベリーから視線を外し、歩いていった。隣りのアメリが、ぎっとした目でルベリーを睨んだ。
ルベリーは下を向いて、あっかんべーをした。
(んべーだ!)
「はあー」
嫌な目にあった。
医務室にジークフリーを置いて、ひとり教室に帰るルベリー。
「急がなきゃ終わっちゃうわ!」
慌てていたのか、階段に足をぶつける。
「痛ぁーい!」
足を押さえる。
すると、後ろで笑い声がした。授業中に誰?と振り向くと、カリナンが形の良い口元に、手を当てている。
(げっ!)
「傷つく顔だ」
カリナンはルベリーに近付いた。ルベリーがさっとまわりを見渡すと、お供が誰もいない。
(どういうこと?)
「ああ、コピーを置いてきたんだよ」
カリナンは微笑んだ。大輪の花が開くような笑顔だ。
人間兵器とも言われるその武器を、くらって動けるのはこの世でルベライトだけだろう。
(あっ!)
ルベリーはしくじった。
ここは他の令嬢のように、腰砕けになって、気絶しなければならないのだ。慌てて、あーれー、と言って倒れる。
笑い声がひどくなる。
「ばれてるけど、まだするのかい?」
「あら、わたしは別人になったのよー。わたしの死体を見たのでしょ?」
ルベリーの言葉に、カリナンは目を瞠った。
「いや、行方不明のままだよ」
「え?」
どういうことなのか、アメリは自分の死体を隠しているのかー。
「行方不明のまま、病死になった。アメリが遺書を預かったけど、いまは見せられないと言うのだ」
「わたし、あいつに殺されましたけど?よく人殺しと婚約したわね」
カリナンは動きをとめた。
「ーーそう、なのか……」
「学院の古井戸に突き落とされたけどー」
「あぁー、だからアメリの父親が井戸を取り壊したのかー」
(かわいそうなルベライト。殺されて、埋められてーー、どっちみち最後は埋めるんだからいいのか、いやそういう問題でもないようなー)
「もう、わたしは別の人間になって、平凡な人生歩いてるんだから、邪魔はしないでね」
「どうして?」
(いや、何いってんのよ)
ルベリーは呆れた顔で、カリナンを見た。
「いま、わたしは超庶民のルベリー・アルードよ。どうがんばってもあなたの側にはいけないの」
胸を張って言う。
「ーーアメリを許すのか?」
「許すも許さないもあいつがやったって証拠がないわ。遺書なんか書いてないんだから、あるわけないし」
とにかく。
「短いか長いか微妙だけど、婚約してくれてありがとう。もう関わらないわ。さよならー、カリー」
ルベリーは歩き出した。
「あぁ、またね、ルベリー」
(そうだ、わたしルベリーって呼ばれてたのよね)
完全にやらかしたわけだ。
「はいはい」
あっ、返事しちゃったわ。
まあ、こればっかりは王太子でもどうにもならないでしょうねー。
最後まで読んでいただきありがとうございました。