星座を見るなら墓場に限る
午後20時過ぎ。
冬の寒い中、彼女に連れて来られたのは、墓場だった。
まぁ、俺は、彼女のことが好きだから? 行きたいならどこへでもついて行くけど? でも、なぜ墓場?
「星がよく見えるね」
彼女はカフェにでもいるような寛いだ表情で、夜空を見上げながら、言う。
「ねぇタツミ。星座とかわかる?」
「全然わかんない」
俺は答えた。
「それより寒い」
「あたしもわかんない。ねぇ、わかんないならさ、二人で色んな星座を作っちゃおうよ」
確かに小山の上に作られた墓地は星が近い。
でも、正直早く帰りたい。寒いし、何より不気味だし。
「なぁ、ヒロミ」
俺は勇気を出して、言った。
「ここってそんなムードのある場所じゃないよな? 星座を見るなら他にもっといい場所あるんじゃね?」
彼女は、むっとした。
悪口でも言われたかのように突っかかってきた。
「なんで? 星座を見るなら墓場に限るじゃん!」
「それこそなんで?」
「死んだ人はお星様になるって言うでしょ? 死んだ人たちを見るのにこれほど絶好なロケーション、他にある?」
「あれは死んだ人たちなの?!」
するとヒロミは機嫌を直したように、うっとりと、
「うん。あたし、とんでもないお爺ちゃんっ子だったんだけどさ、うちのお爺ちゃん座もどこかの星と星を繋いだらいるんじゃないかって思って、ここに来たかったの」
そう言って温かい缶コーヒーに唇をつけた。
「そっか……。ヒロミは死んだお爺ちゃんに会いたかったんだな?」
「お爺ちゃんだけじゃないよ?」
「他には誰?」
「もちろん、タツミ」
「俺?」
「うん」
「でも、俺、生きてますけど?」
もしかしたら俺は知らないうちに死んでいて、この墓地に墓があるとかいうオチなのだろうか? そういう話なの、これ?
ヒロミが明るく笑い、俺のほっぺたに缶コーヒーをくっつけてきた。
温かい。これ、俺が生きている証拠……だよな?
「もしかしたらあたしたちも明日死んじゃうかもしれないでしょ? だからさ、タツミ座とヒロミ座も今のうちに作っておきたいの」
「生前供養みたいなもん?」
「あ! 見て? あの星とあの星を繋いだら……タツミそっくり!」
「どこがだよ? 無理やりだな……」
「星座なんて無理やりなもんだと思うよ? たぶん。あたし、魚座だけど、魚座って二匹の魚を繋げた形してるとか、無理やりだもん」
「魚座は頭がおかしいんだよな?」
「ふふ。ネットではそう言われてるよね」
そう言うとヒロミはいきなり俺の頬にキスしてきた。
好きだと思った。